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Vol.20 |
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祭りの熱狂に誘われて
今年も行った
あの心意気、土性骨
あの熱狂… ねぇ…
もちろん天神祭
天神囃子波瑠に隙なき千社札
祭りには、それぞれの表情がある。
祇園祭の絢爛、葵祭の典雅な様
神田祭りの壮観...。
この天神祭は、宮入りの神輿のあの勇壮な様こそ祭りを感じさせる。とにかく凄い。
大鳥居をくぐるあたりから担ぎ手の掛け声は一段と高まり、一つの熱狂が参道から拝殿へ進んでいく。怒涛のごとく突き進む。
この有様は、浪速っ子の心意気と土性骨をさししめす。思い思いの雄たけびが...。
と、デジャビュ。
こんな喧騒はどこかで見たことがある。
そう、パリにいた時だ。
あの頃のパリには、活気があって、やかましかった。旅行で行ったことのある人は知ってるでしょう。土地っ子に、べれべれまくし立てられて。閉口した経験、あるでしょう。
地下鉄の窓口、パン屋の親父、タクシーの運転手、ホテルのメイドさん。あらゆる人が、事あるごとに、キーキー声を張り上げる。とってもうるさくてたまんない。
彼らにとって、正義と自己主張である。こういうパリっ子のつくる歌だ。シャンソンが、昔から強いメッセージ性を持っていたのは当然だろう。
日本で、「お富さん」がはやっていた頃、フランスでは...。
拝啓 大統領閣下
たった今 赤紙を頂戴した
だが、ご命令には従えない
これから俺は、フランス中を逃げ回りながら人々に説いて歩く
服従を拒否せよと
戦争には行くなと
どうしても血を流さなければならぬなら
あんたの血を流すがいい
大統領閣下
あんたは国民のよい手本なんだから
ボリス・ヴィアン『徴兵忌避者』
国事犯呼ばわりされた、シャンソンのパイオニアたち。
この歌が発表されたのは1954年5月、ディエン・ビエン・フー(北ベトナム北西部、ラオス国境に近い都市。交通、軍事上の要地。フランス軍の拠点であったが、ベトミン軍の攻撃で陥落。インドシナ戦争休戦の契機となった)が陥落し、フランスのインドシナ支配が事実上破綻したその当日である。
これが、どれほど大胆で危険で、素っ頓狂な意思表示であったか...戦争中の日本を思い起こしてみれば明らかである。
当時の日本に、こんなプロテストソング、は一曲もなかった。
...1954年という年代を考えると、後の世に出てくるボブ・ディランや岡林信康は、シャンソンの物真似のような気がしてならない。
当時のフランスでのプロテスト・ソングは、ボリス・ヴィアン一人ではない。
『純白の人』でローマ法王をこき下ろしたレオ・フィレ。『悪い噂』で、わが道を行く信条宣言をしたジョルジュ・ブラッサンス。
飽かずプチブル攻撃を繰り返したジャック・ブレル...。
シャンソン史に残る大歌人たちは、皆、保守層から、国事犯呼ばわりされながらガンとして節を曲げなかった...。
「へぇーー日本でシャンソンというと、『甘い言葉』や『枯葉』のイメージが強いせいか、なんとなく軟弱でオトメチックな音楽って感じがしてたけど、全然違うのね...」
「だから硬派の評論家に『おシャンソン』とからかわれたりするのね」
「本来は、今言ったように、たくましい土性骨の入ったもの」
「土性骨か」
六十年代のロック・レボリューション(ロックによる音楽革命)によって音楽家が解放されるまで、シャンソンは世界で唯一、建前でない真実の思想を歌っていた音楽と言ってよい。
シャンソンとは権力と対立する庶民の本音。
本音のあらわれだからこそ、シャンソン界には、シンガーソングライターが多い。
そもそも。シャンソン歌手の源流は、中世吟遊詩人。つまりシンガーソングライターのはしりだ。
彼らは,現世における人間の喜怒哀楽、あるいは教会や国家権力に対する不平不満を自分自身の言葉で詩に詠み、町や村を回って歌い広めた...。
視点を低いところに置いた彼らの反権力、反骨の姿勢はその後、約850年間シャンソンの背景を築いて現代に至る。
人間の祭りは、今日も別の産声をあげる。
高谷秀司(たかたに・ひでし)
1956年、大坂生まれ。音楽家、ギタリスト。幅広いジャンルで活躍。人間国宝・山本邦山師らとのユニット「大吟醸」、ギター・デュオ「G2us」でコンサート、CDリリース。最新作は童謡をテーマにしたCD『ふるさと』。2010年6月から約1ヶ月間、オーストラリアから招かれ楽旅した。
www.takatani.com
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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