Vol.20 ノルウェーの若い音楽グループ #2 "Sjøen"
text by Ayumi Tanaka

 日本で桜が咲く頃、オスロでは木の芽がようやく開こうとしていた。あちこちで鳥の声が美しく響き、春の訪れを祝福しているかのようだ。

 さて、前回の"Karokh" に続き、友人のノルウェーの若いグループのCDを紹介したい。今回紹介するのは"Sjøen" というグループのデビューCD『Live I』。

 メンバーはHåkon Aase(ヴァイオリン)、Harald Lassen(サックス)(Vol.15で紹介した"Mopti" 、"Duplex"、 "Andrea Kvintett"のメンバーである)、Johan Lindvall(ピアノ)、Bjørnar Kaldefoss Tveite(ベース)、Axel Skalstad (ドラム)。いずれもノルウェー国立音楽大学またはトロンハイム音楽院(ノルウェーの中部に位置する)のジャズ科の在学生または卒業生だ。このCDは昨年の春、ノルウェーのコングスベルグで行われた彼らの初めてのコンサートをライブ録音したもので、この春スウェーデンのレーベルHavtorn(www.havtornrecords.com)からリリースされた。
 楽曲はHåkon AaseとHarald Lassenによる作曲でヨーロッパの現代音楽やインド音楽、クラシック音楽、スカンディナヴィア・ジャズなどからインスピレーションを受けたという音楽はインプロヴィゼーションとの境目なく展開されていく。グループとして初めてのコンサートのライブ録音ということもあり、エネルギー溢れる臨場感のある録音だ。
 このグループの魅力はバランスのとれたアンバランスさにあると思う。それは楽曲、アンサンブルにおける演奏のアプローチ、メンバーの個性に見ることができる。
 例えば、楽曲についてふれると一曲目の"3a - Earn And Burn" からそれを感じることができる。強力なピアノとベースのリフで始まる冒頭はモダンジャズを連想させるのだが、そこにヴァイオリンとサックスの民俗音楽を思わせるエスニックな美しいメロディが入ってくることにより、それら二つの要素は一見アンバランスで聴くものは不安定な気持ちにさせられる。しかしそれが絶妙なバランスで相互作用を引き起こし、音楽にいい影響を与えている。
 また、彼らの音楽を聴けばメンバーそれぞれの個性を楽しむことができ、それらから彼らの音楽背景の違いを感じることができる。例えば、サックスのHarald Lassenからはアメリカのジャズ音楽の影響が強く感じられ、ヴァイオリンのHåkon Aaseからは民俗音楽やクラシック音楽の影響が感じられる。五人の個性のエネルギーは相互作用を起こし、音楽に立体感を与えている。

 CD全体を聴くと、彼らの生まれ育った地であるスカンディナヴィアの大自然を連想させるようなランドスケープや繊細で叙情的な世界観と、それらとは対照的な燃え上がるようなアグレッシブさ、また無機質さなどが、よいバランスで現れているという印象をもつ。ドラムのAxel Skalstad の存在は大きく、彼のドラミング一つ一つはバンドに命を吹き込み、全体を動かすエンジンとなっている。

iTunes https://itunes.apple.com/se/album/live-i/id830835094
Facebookページ https://www.facebook.com/sjoenband?fref=ts

田中鮎美:
3歳から高校卒業までエレクトーンを学ぶ。エレクトーンコンクール優勝、海外でのコンサートなどに出演し世界各国の人々と音楽を通じて交流できる喜びを体感する。
その後、ピアノに転向。ジャズや即興音楽を学ぶうちに北欧の音楽に強く興味を持つようになり、2011年8月よりノルウェーのオスロにあるノルウェー国立音楽大学(Norwegian Academy of Music)のjazz improvisation科にて学ぶ。Misha Alperinに師事し、彼の深い音楽性に大きな影響を受ける。

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NEW1.31 '16

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COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
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