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Vol.67 | 沖山秀子   沖永良部島  1981
text by Seiichi SUGITA

 訃報が飛び込んできた。女優の沖山秀子が急逝したという。3月21日、帰省先の神戸で。死因は不整脈。享年65才。沖山秀子については連載の5回目で早々に取り上げた。追いかけるように4月7日号の「週刊文春」の表紙にビリー・ホリデイのアルバム・カバー3点のイラスト。ジャズ好きの和田誠さんらしい。
4月7日はビリーの誕生日だからだが、ぼくには沖山秀子の追悼に思えた。沖山もレディを追い、レディを歌っていた。合掌。

 「血は立ったまま眠っている__」。女が最も好んだフレーズである。いつも、始まりは銀座のジャズ喫茶&バー<ろーく>。<ろーく>とは“くーろ”、つまり“黒”。“黒”といえば、1960年後葉、<黒音>というジャズ喫茶が蒲田にありました。<ろーく>の常連は、<ろーく>ではなく、《ろいく》と呼んでいる。
 <ろーく>に置いてあるメインのスコッチは“VAT69”。数あるジャズ喫茶&バーのなかでも、なかなか“hip”だと思う。(絶対に“square”ではないってこと)。で、“69”が、<ろーく>にかけてるなんて説明は、蛇足です。“男と女”の世界だというのも、蛇足。もうひとつ、付け足しておこう。いろいろと試行錯誤して、“69”番目に完成した樽という意味でもあり、“69”は、“ブレンデッド”と解釈しても、正解なのです。
 女は、きまぐれな生きもの。
「これって、『ストレンジ・フルーツ』(奇妙な果実)だわ」
 これ以上の説明はやめます。
「えっ__?コレって、『テロリスト群像』(サヴィンコフ=ロープシン)じゃないの」  参考までに、ザヴィンコフ=ロープシンは、ロシアのアナキスト作家で、作家・五木寛之がもっとも影響を受けたと思われる。
 かつて、五木寛之とは、横浜・白楽でときどき見かけたもの。5年前に、京都は熊野神社<大和屋>を訪ねたところ、「このところ、お見えになります」とのこと。
 女は、しなやか。まったくぼくの言葉をシカト(鹿頭)。すっかり、見も心も、アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズの「チュニジアの夜」に、ゆだね、ノリノリ。
 実は現在、またまた入院中。たまたまCNNの映像を目にしたところ。チュニジアからホットに燃え盛った炎は、エジプトへ、そしてリビアへ。現在、多国籍軍の空爆が行われている。
 昼間だというのに、ぼくは、“VAT69”をWで“ストレート・ノー・チェイサー”。
 何と、独裁政権に対する反権力側=人民が、掲げている旗は、“赤・黒・緑”である。“ショウ・ザ・フラッグ”とは、コレをいうのではないかしら? コレは、現権力の旗“緑”になる以前の旗。アフリカも含めて、イスラム圏では、複数の国で、“赤・黒・緑”が用いられてはいる。
 しかしながら、ぼくにとっての“赤・黒・緑”は、あの“ロング・ホット・サマー”から遠く離れて、70年前後に彷徨したニューヨークのハーレムや、シカゴのサウス・サイドで、しばしば掲げられている旗であるわけ。どうも今回は臆病にも、蛇足が多い__。両者は、いわゆる黒人ゲットーで、現大統領夫人ミシェルは、“サウス・サイド”出身である。
 コルトレーン亡き後、70年代前葉に大旋風を巻き起こしたのは、マッコイ・タイナー『サハラ』(Milestone)。アフリカへの回帰、“赤・黒・緑”の壮大なる時空。何と強力に、煽られてしまうのだ。むろん、マッコイもイスラム教徒である。

 

 ところで、アート・ブレイキーももっと以前からイスラム教徒だってご存知かしら?
 アートは、1919年10月11日生まれ。もともとはピアニストであったが、ギャングに脅かされてドラマーに転向したといわれている。1990年10月16日死去。
 アートといえば、日本にファンキー・ブームをもたらせた大立役者。1961年以来、32回も来日している。
 ファンキーとは、どうやら男の性器の臭いのことをいうらしい(cf.平岡正明)。
日本にファンキー・ブームをもたらしたのは、RCA盤『サンジェルマンのジャズ・メッセンジャーズ』。高円寺には<さんじぇるまん>というジャズ喫茶がありました。大ヒットしたのが「ブルース・マーチ」と「モーニン」である。
 <ろーく>でかかっていた「チュニジアの夜」だけど、あれは間違いなく『バードランドの夜』(Blue Note)のはず。というのは、トランペットが確実にクリフォード・ブラウンだから。いやあ、もう、本当になめらかにとくうたいます。ブラウニーをアートに紹介したのは、チャーリー・パーカーだといわれている。パーカーは、マイルスのアパートに居候しているというのに、アートにマイルスを紹介しなかったのでしょうか?(失礼、きっちり時代考証はしておりません)
 静かな病院で、耳をじっとすましていると、鮮やかに「チュニジアの夜」が聞こえてくる。アートって、ホットというよりも、クールなんじゃないの?この見事なバッキングが現実のものとしてよみがえる。
「チュニジアの夜」にはすっかり鼓舞される。これこそジャズのルーツじゃないか。
「ショウ・ザ・フラッグ」
「パワー・トゥ・ザ・ピープル」
 女は個人主義。
 粋な築地の寿司屋に誘われる。
「大人になったら、女性におごってもらったりしてはダメよ」
<ろーく>の女と再会したのは、6年前、すなわち、Cafe & Bar <Bitches Brew for hipsters only>を開店してすぐのこと。
「私にもっとも似合うカクテルかスコッチを下さいな」
 ぼくはクールに『百年の孤独』(焼酎)をカクテル・グラスで出す。(『百年の孤独』はガルシア・マルケスの作)
「まあ、おいしいこと」
<ろーく>の女は、ン10万円をチップとして置いていく。
 それから1週間もの間、不覚にも女が<ろーく>の女だと気付かなかった。
 藤井郷子(p)に頼み、マホガニーのピアノを買ってもらう。本当にありがとうございます。

杉田誠一
杉田誠一:
1945年4月、新潟県新発田市生まれ。
1965年5月、月刊『ジャズ』、
1999年11月、『Out there』をそれぞれ創刊。
2006年12月、横浜市白楽に
cafe bar Bitches Brew for hipsters onlyを開く。
http://bbyokohama.exblog.jp/
著書に『ジャズ幻視行』『ジャズ&ジャズ』
『ぼくのジャズ感情旅行』。
http://www.k5.dion.ne.jp/~sugita/cafe&bar.html
及川公生のちょっといい音空間見つけた >>

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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