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Vol.21 |
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一日の生業のあと
今日も扉を開ける
とってもリズミカルな心地良いシェーカーの音
「はじめてのお客様はわかりますよね。その態度でね。
それに一目見れば、たいてい職業もわかってしまいます...。
嘘はつけませんよ。
人間ってそんなに進化してませんから。」
私がもう10年以上通っている銀座のバーのマスターの言葉だ。
いや、マスターではなく、バーテンダーの言葉だ。戦前からバーテンダーひと筋のこの人は、その呼び名にこだわる...。
カウンターの中での40年、50年、何十万人もの人を見続けてきたのだから、人を見抜く千里眼があるのももっともだ。
そんなプロの前でにわかに格好をつけても仕方ない
とは言え、どんなスタイルでもいいというわけにはいかない。たとえばTシャツにジーンズでも、バーではちゃんと酒を出してくれるだろう。
だが、よほど鈍感な人間でない限り、居心地の悪い思いにとらわれるはずだ。
かつて銀座のバーは紳士の社交場だった。作家、軍人、大学教授、会社役員、 宮様...といった人々の集う場所だったのだ。
古いバーに、なるほど、そうした人々の歴史がしみついている。
必ずネクタイとは言わないが、せめて心のジャケットぐらいは身に着けてカウンターの前に立ちたいもの。
それが丹精を込めて酒を造ってくれるバーテンダーに対する礼儀でもある。
時折、バーテンダーが鮮やかな手つきで振るシェーカーの音が響く。
このシェーカーの音に触発されて、ずいぶんいろいろな楽曲が浮かんだ。
かの大指揮者O氏に最初に出会ったの時、彼は、シェーカーの音を聞いて、リズムをとりながら確かに指揮棒を振っていた。
私は、貧乏ゆすりをしながら、身体でグルーブを表現していた。
お互いの動作に気づくやいなや、照れ笑いしながら目線を合わした。これが会話の始まりだった。
お互い何屋かは言わずもがな...
「4分の3と4分の4が見事に混ざっている。見事なスパニッシュ...」
「本来ラテンのリズムと言うものは...」
「3と4の最小公倍数で...」
「12を基本に考えて...」
「ワルツも4ビートもじつは、同じリズム...」
..........
この後は、止まらない。
この後の付き合いも止まらない...。
私が、クラシック界と縁ができたのも、これがきっかけ。
ひとえにマスターに感謝です。
この店では、音楽さえながれていない。
客同士の低い声が、まるでBGMのように店を満たす。
ここでは、声高に話す人もいないし、黄色い声も飛び交わない。
シャンデリアも、フカフカのソファも着飾った女性もいない。
はるか大昔の人間の集いと同じだ。
ここにいると時が止まっている感じがする。
人間そんなに変わっていない...。
と、耳元で、
「人間の営みって、本当に進化しているのかねぇ。」
「うーーん」
「そんなに変わっていないんじゃない。」
と。
その大指揮者O氏は、今日もベートーベンの第五(運命)を振り続ける...。
演奏の進化と人類の進化を賭けて...。
高谷秀司(たかたに・ひでし)
1956年、大坂生まれ。音楽家、ギタリスト。幅広いジャンルで活躍。人間国宝・山本邦山師らとのユニット「大吟醸」、ギター・デュオ「G2us」でコンサート、CDリリース。最新作は童謡をテーマにしたCD『ふるさと』。2010年6月から約1ヶ月間、オーストラリアから招かれ楽旅した。
www.takatani.com
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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