Vol.22
本物の美...そして日野TERU




美しきもの。
うつくしきもの。瓜にかきたるちごの顔。
すずめの子、ねず鳴きするにをどりくる...『枕草子』

本物の美が放つ、すさまじいエネルギーについて考えさせられることがある...
美イコールきれいなもの、という図式だけでは、語れない何かがある。
美の中身を突き詰めていくと、
そこでは、得体の知れない不気味で神秘的なものにぶつかる。
本当の美は、人の心を和ませるなんて、生易しいものではない。
すさまじいエネルギーを放っている。

例えば、
『日月山水図』(作者未詳。十六世紀、室町時代の作品),よーく見ると、右と左(右側の六曲「右隻」と左側の六曲「左隻」)の構図が違う。

熱海のMOA美術館に収めれらている「女湯図」、江戸時代の売春婦を描いたもの。
貧困にあえぐ女たちなんだけれども、それぞれ男なんか目じゃないっ、というようなふてぶてしい表情をしている。
昂然と肩で風切る女たち。いつわりのない奔放な生き方をしている女たちの強さを感じる。

興福寺阿修羅像。
青年になる直前の、端正な少年の顔立ちの中に、人間の哀しみを見尽くしてしまったような哀愁をたたえている。
未だ男ではなく、女でもない。性をもたぬという欠落感が生む尋常ならぬ美しさ。
どんなに醜いものや、汚れたものが入ってきても、影響されず、すべてを包含している揺るぎないもの...。

戦闘的でやさしいフランス人。
「でも粋じゃないとつまらないね」
「うん」
「僕はひょんなきっかけでフランスに行って、しばらく滞在したんです。当時の日本のブルーズマン、ジャズマン(ブルーズやジャズを生業とする人)の日常といえば、食うや食わずという生活。
しかも創造のための貧乏というのは、美徳という時代。
ところが、かの地で見た音楽家の生活は、日本のそれとは大違い、どんなに貧していても、そこそこの住居に住んで、一日の終わりには、ワインを飲みながら、楽しく食事をする...。

うーーん...そのとき学んだことは、『創造の最初の基盤は日常生活にある』...

適度に戦闘的で、しかしやさしい。それがふつう...フランス的。フランス人は、危険なものと隣り合わせで生きていくことの美しさというものを知っている...。
ボリス・ヴィァンは病気を患って医者に禁じられてもコルネットを吹き続けた。...。
ゲンズブールは、肺がんになってもタバコを吸い続け、人に自殺行為といわれると、『肺はがんにくれてやる』という有名な言葉を残して世を去った。

『おんどれ、何を気取っとんねん』といってしまうとしまいか...。

この間、トランペッターの日野皓正さんがこんなことを言っていた。
『僕はトランペットを吹いているとも思ってないし、ジャズをやっているとも思わない。ただ人間をやっている。クリエイトしてる。
YOUがやっているギターも同じでしょ。
どんな違う世界の人でも同じことだと思うんです。ね、だからそれを奏でようじゃないか。それだけなんです…。
やっぱり何のために生きているかということをすごく考える。
僕であって僕じゃない、すごい力がね、何かを「やれ」って言う。それを何とかもっと表現できるようになりたい。』

日野さんは宇宙に焦点を当てている。その手段がたまたまジャズであり、トランペットなのだ。そんな気がする。

宇宙が相手なんだから、日野さんのチャレンジは無限、しかも刻々変化する。
その奏でる音はいつもひたむき...。
時として、そのひたむきさが顔に現れてくる事がある。その表情はまるで仏像。
なぜ、こうも人を動かすことができるのだろうか。
仏像は、業を背負った人間が、それを乗り越えようとしたときに表現できるもの。
だから人間以上の精神性を具現している。
そして、その仏像を見るのは、ほかならぬ業を克服できない人間。
だからこそ感動する。
自己浄化ほど難しいことはないから...。

*関連リンク
http://www.jazztokyo.com/newdisc/531/hino.html

高谷秀司(たかたに・ひでし)
1956年、大坂生まれ。音楽家、ギタリスト。幅広いジャンルで活躍。人間国宝・山本邦山師らとのユニット「大吟醸」、ギター・デュオ「G2us」でコンサート、CDリリース。最新作は童謡をテーマにしたCD『ふるさと』。2010年6月から約1ヶ月間、オーストラリアから招かれ楽旅した。
www.takatani.com

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
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#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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