Vol.23 オスロ・ジャズ・フェスティバル 2014
text by 田中鮎美 Ayumi Tanaka

ノルウェーの首都オスロで8月11日から16日の6日間にわたりジャズ・フェスティバルが行われた。オペラハウスで行われたノルウェーのピアニストTord Gustavsenのコンサートで幕開けし、6日間、5箇所の会場で約60ものコンサートが開催された。
1986年に始まったこのフェスティバルは今年で28年目を迎え、ノルウェー国内外から音楽家が集まった。ノルウェーから他にAlbatrosh、Arlid Andersen Sextet、Atomic、Hanna Paulsbergs Concept、Helge Lien Trio、Monkey Plot、Pixel等。海外からはThe cookers(アメリカ)、Django Bates(イギリス)、John Surman(イギリス)、Lill Lindfors(スウェーデン)、Michel Legrand(フランス)、Monty Alexander Trio(ジャマイカ)、Nik Bärtsch Ronin(スイス)、Sun Ra Arkestra(アメリカ)等が出演した。
中でも<シェルブールの雨傘>などで知られるフランスのMichel Legrandのコンサートがとても心に残った。世界中の人々に愛されている名曲の数々が82歳になった作曲者によって奏でられた。何十年も前に書かれた曲たちも少しも色あせることはなく、今という時にぴたりと合いそして輝きを放っていた。Karin Korg、Solveig Slettahjellの2人のノルウェーの歌手が登場する場面もあり、美しい名曲は国や世代を超えてずっと受け継がれていくのだろうと感じた。私が大好きな曲 <You must believe in spring>を聴けたのは本当に嬉しかった。
私がオスロに来てからこのジャズ・フェスティバルも3年目。1年目の時は、ちょうどオスロに着いて1週間が経った頃に行われていたので、この時期が来るとここに来た頃のことを思い出す。この街で初めて足を運んだコンサートがフェスティバルでのBrian Blade & The Fellowship Bandだった。Brian Bladeの存在感に圧倒され、彼の生きた音を目の前にしたその時の衝撃は今でも鮮明に覚えている。同年のフェスティバルでCarla Bleyと今年亡くなってしまったCharlie Hadenのコンサートにチケットが売り切れていて行けなかったことが本当に悔やまれる。
短い期間に多くのコンサートが行われていて、街の様子はいつもと変わらないのにコンサート会場のドアを開けるとそこには別世界がある。演奏者のエネルギーもそれぞれ違うし、もちろんお客さんのそれも違う。人々はそれぞれ違う思いでそこへやってくるのだろうが、音楽が生まれる瞬間に共に居合わせるということは特別なことだ。そういうことが同時期に様々な空間で起きていることが、フェスティバルの面白いところだと思う。またノルウェーのコングスベルグで行われたジャズ・フェスティバルでは出演者のJoshua Redmanがあちこちのコンサートを見て回っていたらしいけれど、それもフェスティバルの醍醐味だろう。音楽家が誰かの演奏を聴いたり聴かれたり共有し合い、そういう風にして音楽が生まれていくことがあれば素晴らしい。
フェスティバルを見て回っていると本当に様々な音楽家がいるのだなぁと改めて感じさせられる。国籍も違えば世代、環境も違って生きている。多くのコンサートを見ているとそれぞれの音楽家の持つ背景、人としてのエネルギーが音楽の手前に浮かび上がってくる。
今年のオスロ・ジャズ・フェスティバルは色々と考えさせられる機会になった。音楽は本当に一期一会。フェスティバルが終わってしばらくした頃、最近出会った婦人と夕食を共にした。私より50も年を重ねられているその人は「私の人生、本当に音楽に救われてきたわ」と言った。彼女がこれまでに出会ってきた音楽に感謝すると同時に、音楽が持つ力を改めて確信した。

Arlid Andersen Sextet(左からBugge Wesseltoft. Petter Wettre. Arlid Andersen. Gard Nilsen. Klaus Holm. Mathias Eick)
photo: Francesco Saggio
The Cookers(左からBilly Harper. David Weiss. Eddie Henderson. Jallerl Shaw)
photo: Francesco Saggio
Billy Hart(The Cookers)
photo: Francesco Saggio
Helge Lien
photo: Francesco Saggio
Helge Lien Trio(左からPer Oddvar Johansen. Helge Lien. Frode Berg)
photo: Francesco Saggio
Nik Bärtsch(Nik Bärtsch’s Ronin)
photo: Francesco Saggio
Marshall Belford Allen(Sun Ra Arkestra)
photo: Francesco Saggio
Sun Ra Arkestra
photo: Francesco Saggio
Sun Ra Arkestra
photo: Francesco Saggio
John Surman and Bergen Big Band
photo: Francesco Saggio

*写真は全て Francesco Saggio氏による。
Francesco Saggio: オスロで活躍するイタリア、ミラノ出身の写真家。数年前からオスロ最大のジャズクラブNasjonal Jazzsceneの専属カメラマンを務めており、数々のミュージシャンの名演を写真で残している。www.francescosaggio.no

田中鮎美 Ayumi Tanaka
3歳から高校卒業までエレクトーンを学ぶ。エレクトーンコンクール優勝、海外でのコンサートなどに出演し世界各国の人々と音楽を通じて交流できる喜びを体感する。その後、ピアノに転向。ジャズや即興音楽を学ぶうちに北欧の音楽に強く興味を持つようになり、2011年8月よりノルウェーのオスロにあるノルウェー国立音楽大学(Norwegian Academy of Music)のjazz improvisation科にて学ぶ。Misha Alperinに師事し、彼の深い音楽性に大きな影響を受ける。

WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.