Vol.23
文明の仕掛ける罠...暗喩
新しい音楽創造のために...




夢って形がありますよね

でも未来ってどうだろう
形ってあんまり見えないんじゃない
夢を見た人はたくさんいるかもしれないけど
未来を見た人はきっと少ないよね

未来って形がないのかな...

これからの新しい音楽の未来って 何だろう

ある初期の南極探検隊の人が、こんな言葉を残しています。
「もし6ヶ月にわたる宇宙飛行のチャンスを与えられたならば、たとえそれが死を意味したとしても、やはり、私はその未来を求めて出かけたと思います。」
ほかに何人か、同じようなことを言った探険家たちがいる。当時のかれらの持ち合わせたバイタリティーを、もはや 我々 現代の人間は忘れてしまっているのかもしれない。いわゆる血気盛んというやつだ。彼らは野心家であり、同時に理想主義者だった。
その理想を追いかけるのに、もっともふさわしい場所のひとつが南極だったに過ぎない。

その南極大陸最初のアメリカ越冬基地がイースト基地だった。
この基地を作ったのは二人の男だった。一人はアメリカ人リチャード・ブラックル。
もう一人は、ノルウェーからの移民であり、父親がアムンゼンの南極点探検の際のサポート隊にいたという、フィン・ローヌ。
ブラックとローヌは、それぞれイースト基地建設のため、合衆国支援で送り出された隊員26名の第一次、第二次探検隊隊長を務めていた。この探検は、第二次世界大戦が始まった1941年に急遽撤退ということになったが、ローヌはその後もイースト基地のことを決して忘れてはいなかった...。

これは、彼の未来への想いだろう。

この想いは、隊が再び1947年初頭に南極に到着し、長さがたった800メートルしかないストニントン島、一年間にわたる滞在探検を目指し越冬生活に入ったときにも引き継がれた。
ここでの男女隊員たちの生活は、つらく危険なものだったに違いない。南極大陸のほとんどは、依然未知の状態にあった。足を伸ばして観測、測量地図作成の仕事...。常にスコップを手にしての、つらい肉体労働に明け暮れるものだったはずだ。
バックパックを持って出掛けては、犬の餌用に、アザラシを捕り、その皮下脂肪を集めていた。
隊員たちは、探検シーズンの準備をし、犬たちの面倒を見るのと同時に、気象学や地震研究用の情報データを集め、潮位の記録をとる。
博物館用にペンギン、ウミドリを捕獲し、皮を剥いだ。
フーミゲーター(暴風)は定期的に来襲した。絶え間ない雪とブリザード(極地に吹く雪の嵐)、隔絶の地で、氷に閉じ込められる日々。

こういう時に、文明の罠は、仕掛けられる。
文明の匂いを求め、パン種のイーストを使い、ドライフルーツから密造酒を作った。でもその酒は、結局のところ風邪も、孤独も癒してはくれない。
そんな尋常でない孤独感に見舞われながらも、彼らは南極で過ごした...。
それは、未知の大陸を人間の生活に引き寄せるのに必要な情報を、ゆっくりとかつ体系的に収集する地味な作業だった。
このことは、南極という大きな未来に投網をかけて引き寄せる仕事だった。
そんな彼らを支えたものは何だったのだろう...。
形のある夢でもない
ちっぽけな栄誉でもない
もてはやされる名誉でもない
彼らを支えたものは、まぎれもなく純粋な、『南極という未来への渇望』
それは執り付かれたものの特権だった。

我々には、今ミュージッシャンとして
『新しい音楽の創造への純粋な渇望』を取り戻すべき時が来ている。
音楽に仕掛けられた文明の罠は、JAZZを腐敗させた。
そして,JAZZが,JAZZであろうとするためにJAZZそのものに自己矛盾を生んだ。
時としてただ単なる流行という現象しか生まないで、音楽そのものを翻弄する。
しかし、今さら芸術至上主義を錦の御旗にしようとは、とは思わない。
ただ必要なことは、音楽創造の未来への渇望。
まだ出会った事のない未知の音楽への渇望。

南極大陸におけるブラックとローヌのような存在が、そこここから芽を吹き始めている。

高谷秀司(たかたに・ひでし)
1956年、大坂生まれ。音楽家、ギタリスト。幅広いジャンルで活躍。人間国宝・山本邦山師らとのユニット「大吟醸」、ギター・デュオ「G2us」でコンサート、CDリリース。最新作は童謡をテーマにしたCD『ふるさと』。2010年6月から約1ヶ月間、オーストラリアから招かれ楽旅した。
www.takatani.com

JAZZ TOKYO
WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.