![]() |
![]()
Vol.25 |
![]() |
ちょっと調べ物があって、ことわざ辞典なるものを紐解いてみたら、驚いた。それはそれはずいぶんいろいろな諺がある。
聞いたことのないもののほうが多いくらいである。
ふと目にとまった諺;
A rolling stone gathers no moss
女房に意味を聞いてみた。
「おい、これどういう意味?」
Wife「え、どれ、『転がる石に苔は生えない』でしょうに。」
私 「そりゃ そうだけど....」
私 「あの、ローリングストーンズと関係あるの?」
W 「さぁ、ストーンズに? 関係ねぇ?」
W 「諺は知ってただろうけど...ネーミングのときに女風に意識してたでしょうか。」
私 「.....」
W 「この諺調べてみようか」
W 「エーと、成立は結構古いわね。14世紀よ。」
私 「もちろん、イギリスだろ?」
W 「そう。えーっと、意味はねーー『性急に仕事を変えたりすると金持ちになれない。』 あんたにぴったりの諺ね」
私 「?」
気を取り直して、
私 「そうすると、『転がる石』が悪い意味で『苔』のほうが価値を持つのか....」
W 「そう、でも、今、アメリカじゃ逆の意味で使われているわね。つまり,『職を変えて自分の可能性を次々に試したほうが老化しない』」
英米両国、同じ諺に対する意味の落差には、それぞれの文化の体質が刻印されている。
定住を基礎とする文化のなかでは、「苔」はプラスの価値を持つが、流動性の激しい競争社会では、「苔」は、マイナスの価値しか持たない。
わが国家、「君が代」に「...巌となりて、苔のむすまで」と歌われていたかつての定住の文化が、流動性のある文化に変っていったのが、日本の戦後。
望むと望まざるとにかかわらず、それは大きな波のうねりであった。
「君が代」で思い出したが、ずいぶん昔、阿部公房がこんなことを言っていた。
ビートルズを評して、「『サージャント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブバンド』 (ビートルズのアルバム・タイトル)はナチスのパロディだ。」と。
言われてみればそんな気もする。ペパー軍曹を中心とした軍楽隊が、ナチスを模倣しながら、パロディの力ですべて解体してしまうような趣がある。
ナチスを壮大な意味の体系と見るならば、ビートルズは、「意味=sense」に対する「無意味=nonsense」の祝い祭り。
ビートルズは、パロディ化すべき秩序の壁があったから、反抗者の姿勢が可能であった。そしてそれがひとつのショーとしての広がりを備えていた。
ところが、ローリングストーンズにはパロディの発想を拒否するところがある。
パロディにする対象にする視点さえ失った視点で、「純粋暴力」とでも呼びたくなる何かを発散していた。
ビートルズの流行を斜め見に見物していた私が、ローリングストーンズのほうに好感を抱いたのは、風刺とか政治的意味などというものをはぎ落としたあとに残る何ものかを ストーンズから感じ取っていたからに違いない。
ビートルズが「ビートルズジャケット」というかたちで、ファッションにまで浸透し、他方では、反戦ミュージカルとして「ヘアー」が話題になっていた頃、
意識的に両者に背を向けるしかなかった。
私の言うストーンズの「純粋暴力」とは、、ジャン・ジュネ、バタイユ、コリン・ウィルソンと何ものかを共有する感性をいう。
それは、土地に帰るべき根を奪われつつも、リズムと幻想のうちで古代の祭儀のイミテーションを演じようとする感性。
あるいは、徹底して都会的であることが、いやおうなしに反都会的な熱狂を招き寄せる感性...。
しばし、ストーンズの歌に耳をかたむけてみよう・
たかがロックンロールだけど
俺はこいつが大好きなのさ
こいつに夢中さ
こいつが大好き
そう
大好きさ
好きで好きでたまらないのさ
この年老いた少年は孤独なんだ
それが分からないのか
(イッツ・オンリィー・ロックンロール)
50年代から60年代初期にかけて成長してきたロンドンの音楽少年たちは、20世紀の西洋文明がいかに自分たちの精神をひ弱なものにしているかを感じ取っていた。彼らは都市を生き延びるための手段として、肉体性を失わずにいたプリミティブな伝承社会に共通する音楽形式や独特のリズムに注目した。
それは、アフロへ通じる道である。(ミック・ジャガー自らが、ホワイト・ニグロと名のり、流行に左右されぬといいつつも、ジャズやブルーズやレゲエなどの黒人音楽の趨勢にだけは、他のどんなミュージッシャンよりも気を配っている。)
近代的な都市文明の退廃爛熟期を生き抜こうとする少年たちのロックは、ゲイからのがむしゃらな逃亡である。
だから、ストーンズの身振りや歌は、ひとつの廃墟音楽。少年たちの廃墟舞踏。
廃墟になってしまった都市空間に、かがり火の本当の美しさを認め、暗闇の真の脅威の感覚をとりもどす為に...。
伝承的な人々の生活に作用している、肉体的で精神的な不思議な力を呼び込もうとする果敢な試み...。
これからこの石の転がる方向は...。
高谷秀司(たかたに・ひでし)
1956年、大坂生まれ。音楽家、ギタリスト。幅広いジャンルで活躍。人間国宝・山本邦山師らとのユニット「大吟醸」、ギター・デュオ「G2us」でコンサート、CDリリース。最新作は童謡をテーマにしたCD『ふるさと』。2010年6月から約1ヶ月間、オーストラリアから招かれ楽旅した。
www.takatani.com
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.