9月の日本は4年ぶりだった。オスロではもう薄手のコートを着ていたので、空港から外に出た時の湿気と熱を含んだ日本の空気は少し私を驚かせた。久々に訪れた東京は別の形をした色々な建物が競うようにそびえ立ち、人々は取り憑かれたようにスマートフォンを握りしめ、ぎゅうぎゅうになった電車に揺られている。どこに行こうと人々が忙しそうに迷うことなく行き交い、あちこちから何層にもなった音の波が耳を覆う。私は日本人でありながらカルチャーショックのようなものを受けていることに気づく。ノルウェーに長く居過ぎたのかもしれない。とてつもなく長閑なノルウェーに。よく来日したノルウェー人が目を輝かせて「東京はクレイジーですごい街だ」と言っている理由がわかったような気がした。以前は当たり前に見えていた景色がまた違った印象で私の目に映った。
9月19日、私は東京の仙川という街にいた。「JAZZ ART せんがわ」に出演させていただくためだった。ご縁があり、藤原清登ディレクション〜eyes〜で沖 至さん、藤原 清登さん、八木 美知依さんという素晴らしいミュージシャンの方々と演奏させていただく機会をいただいた。たまたまノルウェー人の友人を通して私の音源を聴いて下さった藤原清登さんが、出演しないかと声をかけてくださった。話を進める中でせっかくの機会なので、まだお会いしたことのない方と共演してみたいとお願いしたところ、沖至さんを共演者として選んでご紹介してくださった。初対面の方々との共演とあってどきどき、そしてわくわくしながら会場に向かった。
挨拶を交わして、サウンドチェック。初めて出会う沖さん、藤原さん、八木さんの音はそれぞれもちろん違うものが含まれているのだが、共通してまっすぐな印象を持った。またそこに含んでいるものにとても惹かれ、それを知りたいと感じた。お三方ともとても温かい人柄で安心した。
ステージは初めは沖さんと私、藤原さんと八木さんのそれぞれのデュオ、最後は4人全員でという構成で進められた。プログラムは全て即興演奏。大きな会場で初対面の方との即興演奏という方法でコンサートをしたことがあまりなかった私はなんだか普段しない緊張の仕方をしたが、演奏していくうちにそれは溶けていった。それぞれが生み出す瞬間の音や息づかいが、同調したり違う方向に向かったり、数時間前に出会った私たちは音楽というツールを通して、一緒に旅をし、どこまでも一緒に行けそうな気がした。日本人であるという共通のバックグランドを持ちながら、それぞれ違う場所で違う人生を歩んでいる私たちが、それらを越えて瞬時に通じることができる"音楽"はやはり素晴らしいと感じずにはいられなかった。もちろん、1時間半というステージで全てを通じることは難しいのかもしれないが、それもまた面白いところなのかもしれない。またトランペット、箏、コントラバス、ピアノという楽器編成にも無限の可能性を感じた。果たしてお客さんにとってどのように感じられたのかとても興味深い。
私は残念ながら自分の出演後すぐに会場を去らなければならなかったのだが、その後のステージも素晴らしいものであっただろうと想像する。素晴らしい機会を下さった藤原清登さん、「JAZZ ARTせんがわ」に感謝したい。音楽やアートを純粋に愛する人々によるこのようなフェスティバルがずっと続いてほしいと願う。
最後に藤原清登さんが綴られた今回のコンセプトの言葉を引用したい。
“ | 世界を聴く目は、めききの心です。 |
耳は聴き分け、目をそらす。 | |
そらせばそこに見えるものが聴こえて来ます。 | |
ここでしか創れない集まりの音楽。 | |
出逢う事の偶然性。 ” |
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田中鮎美 Ayumi Tanaka
3歳から高校卒業までエレクトーンを学ぶ。エレクトーンコンクール優勝、海外でのコンサートなどに出演し世界各国の人々と音楽を通じて交流できる喜びを体感する。その後、ピアノに転向。ジャズや即興音楽を学ぶうちに北欧の音楽に強く興味を持つようになり、2011年8月よりノルウェーのオスロにあるノルウェー国立音楽大学(Norwegian Academy of Music)のjazz improvisation科にて学ぶ。Misha Alperinに師事し、彼の深い音楽性に大きな影響を受ける。
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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