孤高の若き音楽家である。
　自己の信念を貫き演奏活動を続けている１９８３年生まれの２９歳のチェロ奏者セルゲイ・アントノフ。
　２００７年第１３回チャイコフスキー国際コンクールのチェロ部門優勝。翌２００８年のチャイコフスキー国際コンクール優勝者ガラ・コンサートで初来日。以来、来日回数は今年で６回を数える。２０１０年の東京での初リサイタルでは ｢現代的なセンスが漲っている｣ と高い評価を受ける。その音楽性はヨーロッパ的な華やかさはないが、密度の濃い凝縮した音楽性で聴く人のこころを捉える。チャイコフスキー・コンクール優勝後、事務局のマネジメントやCD製作の斡旋を受け入れなかったためにヨーロッパでの演奏は少ない。CDも今までに個人レーベルの２枚を出しているにすぎない。自主制作の方が自分の方向を見定めることができる、と語る。２００７年からアメリカのボストンに住み、母親の教え子と結婚している。日本での楽しみは演奏会後にお寿司屋さんに行くことだそうだ。お魚は大好きでアジの開きも食べられるという。そして自分でも料理をするのが好きで楽しむという。
　使用楽器は中学生の頃から今日まで使用しているストラディヴァリウスのレプリカ。もちろんチャイコフスキー・コンクールもこの楽器を弾いて優勝。今回の来日ではチャイコフスキーの３大協奏曲をロシアの若き演奏家たち、ヴァイオリンはセルゲイ・マーロフ、ピアノはイリア・カザンツェフと一夜で熱奏した。近いうちにこの三人による室内楽を聴いてみたいと思う。