Vol.71| フレディ・ハバード
1970 NY ヴィレッジ・ヴァンガード
text by Seiichi SUGITA




 ヴィレッジを散策中、<フォーク・シティ>で意気投合したゲイとバッタリ。
「ハイ、こないだのハッパどうだった?」
「最高にゴキゲンなハイ〜オープン・マインドだったよ」
「今夜も、<フォーク・シティ>にこないか?」
「いや、これから<ヴァンガード>へ行くつもりなんだ。ところで、食事するのに、どっかいいとかない?」
「<O.ヘンリーの店>へは、行ったかい?」
「いや、まだだ」
「ハッパじゃなくて、マッシュルームのパスタがいいよ(笑)」
 1970年夏、その週は、フレディ・ハバードのウィークである。“タラ・レバ、ご法度”は、ゴルフだけではないのだけれども、もしも、クリフォード・ブラウンがいなかっタラとか、マイルス・デイヴィスがエレクトリックに走らなけレバ、なんて、ついつい考えてしまう。

 初めて会ったフレディは、何ともクールというか、素っ気ない。
__貴方の『オープン・セサミ』(Blue Note)が大好きです。
「そう、で?」
__写真を撮らせて下さい。
「オレは、まったく気にしないから、勝手にやってくれ」
 おかげで、超接近して自由に撮ることができる。
 フレディのパフュームは、香ばしいお茶だと知る。“チャーオ”〜お茶〜ハッパ(グラース=マリファナ)。

 一発聴いて、ゾクッとくる。音がでかい。ヌケがメチャいい。スタイルとしては、建築でいうところのポスト・モダン。
 最先端かとうかは別として、スコーンと音がヌケている。おもえば、ハード・バップの輝かしい呪縛から、いちはやく抜け出したのは、フレディをおいて他にない。
 ときとして、あのブラウニーよりもよりなめらかに、よりメロディックに、こよなく、うたう。最も心に響く「デルフィア」。
 ウデのみせどころ、ハイ・ノートだって軽々とやってのける。
 そして、何よりも釘付けにさせられたのは、深い内省的なアプローチ。ときに、スピリチュアルなコルトレーンをすら想い起こさせる。

 

 ぼくの一番のお気に入り、『オープン・セサミ(開けゴマ)』(Blue Note)は、初リーダー・アルバムである。録音は60年6月。メンツは、ティナ・ブルックス(ts)、マッコイ・タイナー(p)、サム・ジョーンズ(b)、クリフォード・ジャーヴィス(ds)。未だ、瑞々しいバイオレンスに満ちあふれているではないか。
『オープン・セサミ』を聴くと、いつも、アビー・リンカーン(vo)とマックス・ローチ(ds)の『ウィ・インシスト』(Cnadid)を続けて聴きたくなる。フレディが希求しているのも、とどのつもりが、自由と解放なのです。インディアナポリスから、ニューヨークにやって来て、まだ2年ぐらいしか経っていないというのに、ハード・バップというスタイルでは包括できない、未知なる可能性の萌芽がみられる。アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズに参加するのも60年のこと。
 70年夏、<ヴィレッジ・ヴァンガード>で出会ったフレディは、さらに未知なるサムシング・エルスを予感させてくれる。

 フレディ・ハバードは、1938年4月7日、インディアナポリスに生まれる。ニューヨーク・ジャズ・シーンに登場するのは58年。ソニー・ロリンズ(ts)、スライド・ハンプトン(tb)らのコンボで活躍。60年にジャズ・メッセンジャーズに参加することになったのは、リー・モーガン(tp)の推薦による。
 代表作として、前期2作の他、『ブレーキング・ポイント』(Blue Note)は、どうしても外せない。録音は、64年5月。ここでのフレディは、フリーの方法を完全に血肉化している。
 そして、絶対に外せないのが、『フリー・ジャズ』(Atlantic 1961)。オーネット・コールマン・コンボ (l)vs エリック・ドルフィー・コンボ(ll)の集団即興演奏である。フレディはといえば、後者に参加している。表紙のジャクソン・ポロックの絵でいえば、分厚くチューブのまま塗り込まれた、さしずめ鮮烈な赤であろうか?コルトレーンの『アセンション』(Impulse 1965)に先立つこと4年のめくるめく、コレクティヴ・インプロヴィゼーションの金字塔である。
註:
(l)ドン・チェリー(pocket tp)、スコット・ラファロ(b)、ビリー・ヒギンズ(ds)
(ll) フレディ・ハバード(tp)、チャーリー・ヘイデン(b)、エド・ブラックウェル(ds)

 時代のスイタルに流されることなく、つねに半歩、自由に先を見据えたジャズ・アーチストではある。
 2008年12月29日、死去。“自由と解放”をしっかり手中に収めたに違いない。
<O.ヘンリーの店>の壁には、「最後の一葉」が描かれている。「一葉」が、麻のハッパだったら、笑えるのにね。

杉田誠一
杉田誠一:
1945年4月、新潟県新発田市生まれ。
1965年5月、月刊『ジャズ』、
1999年11月、『Out there』をそれぞれ創刊。
2006年12月、横浜市白楽に
cafe bar Bitches Brew for hipsters onlyを開く。
http://bbyokohama.exblog.jp/
著書に『ジャズ幻視行』『ジャズ&ジャズ』
『ぼくのジャズ感情旅行』。
http://www.k5.dion.ne.jp/~sugita/cafe&bar.html
及川公生のちょっといい音空間見つけた >>

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6月 Dedicated to 金井英人(b)
7月 Dedicated to 沖山秀子(vo) “Summertime”
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#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
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COLUMN
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今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
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#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


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「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

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