Vol.26
アフロ アメリカン
アフロ ジャパン




先日のこと、「大吟醸」 (人間国宝 山本邦山:尺八奏者とわれわれのギター・デュオG2usを含む音楽ユニット) のメンバーに、もし遊びに行けるとしたら、どこの国に行きたいか聞いてみた。

みんなの希望はアフリカだった。どの位知っているかは別にして、とにかくNo.1だった。
「どうしてアフリカなの!?」
メンバーに聞いてみた。
「だって広くてカッコいいもん」
・・・・・・
無邪気なものだ。

たしかにアフリカは、広大かつ多様な大陸だ。見方を変えると、スエズ運河でユーラシア大陸と切り離された巨大な島とも言えそうだ。
でも、同じ島でも日本の面積の八十数倍の土地に、約一億五千万人の人々が住んでいる。いかに人口密度が低いかがわかる。

このアフリカは古代エジプト文明ばかりか、マリやガーナという古代王国、東アフリカ沿岸の都市国家文明の栄えた歴史をもつ世界であり、数世紀にわたって奴隷貿易と植民地支配を受けた悲劇の大陸でもある。

自然条件でみても、地中海気候、熱帯、亜熱帯気候があり、世界最大のサハラ砂漠があれば、サバンナ地帯もある。万年雪をいただくキリマンジャロのような沿岸地域もある。そこに、現在50を越える独立諸国や独立闘争をしている国がある。宗教的にも、イスラム教、キリスト教、原始宗教など、アフリカはきわめて多様である。

何百年か先の未来に、音楽学者が音楽の歴史を書くとしたら、二十世紀のことをアフロ・アメリカン・ミュージックの時代と呼ぶに違いない...。

アフロ・アメリカン=アフリカ系アメリカ人...。

思い起こせば、ブルースというものが生まれてから、やがて一世紀を経過しようとしてる。実に百年である。この間、黒人大衆音楽のメインストリームは、単なるブルースからリズム&ブルースへ、さらには、ソウルへと形容の変化を経験したわけだが、やや荒っぽく言ってしまうと、それらはみな本質的に同じ根をもつ音楽にすぎない。

ただ、時代の変遷とともに変わる黒人の状況、あるいは黒人のアメリカという国に対する観念、テクノロジーなど、包括的に言うと、黒人文化の変容によって異なった表情をもつ音楽として、われわれの前に姿をみせているにすぎない。

それにしても、アメリカのブラック・ミュージックの全ての過去を振り返ろうとする時、一体どうしてこのような魅力に富んだ、しかもある意味では『特殊な』音楽が生まれてしまったのだろうと考え込まざるをえない。

もしアメリカという国がなければ、ブルースは生まれなかった。もしアメリカがアフリカ人を奴隷として連れてこなければ、ブルースは生まれなかった。また、もしアメリカがカトリックの国であったなら、生まれてきた黒人音楽は、ブルースとは全く違うものだったろう。

もし...などと考えていくと、とりわけ今のアメリカ黒人と遠い祖先を同じくする西アフリカの黒人やカリブ海の黒人のもつ音楽のことも思いうかべていくと、いまさらのように、ブルースというものをアメリカ人たる黒人の偉大な創造物であると捉える一方、なぜこれほどに屈折した詩をうたわねばならなかったのか、状況一般の異常さに茫然とさえしてしまう。

日本にもたくさんのブルースバンドがあった。今でも数多ある。でも、それらは所詮紛いもの。
本当のブルースが詠えるバンドはほとんどないし、そんなシンガーも少ない。今さらながら歴史の重みを感ずる。

でも、この『大吟醸』の尺八奏者山本邦山は、そんじょそこらの日本人とは、全く違う。ブルースの魂が注ぎ込まれている。体のどこを切っても熱きブルースの血が流れている。
どこへ行っても負けない。
邦山の血を全身全霊を賭けて、音楽に注ぎ込む。
二人で歴史の重みを吹き飛ばす。
そして本当のブルースを詠う。

よし、明日アフリカへ旅立とう。
アフロジャパン
乾杯

今月『大吟醸』のアルバムが上梓される。



高谷秀司(たかたに・ひでし)
1956年、大坂生まれ。音楽家、ギタリスト。幅広いジャンルで活躍。人間国宝・山本邦山師らとのユニット「大吟醸」、ギター・デュオ「G2us」でコンサート、CDリリース。最新作は童謡をテーマにしたCD『ふるさと』。2010年6月から約1ヶ月間、オーストラリアから招かれ楽旅した。
www.takatani.com

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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