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 Vol.72 | ホルスト・ウェーバー 1975 独アーヘン  text by Seiichi SUGITA



 ぼくは、典型的な「情報弱者」である。さすがに、ケータイは持っているけれども、意識的に、メールもネットもやらない。仕方なく(?)古谷暢康は、受け専用のケータイを買うことになる。
 どっぷりとインフォメーション・テクノロジーにつかっていなくとも、必要な情報は、見えてくるもの。ではないでしょうか?
 去る6月3日(金)、<横浜みなとみらい大ホール>のエヴィリン・グレニー/アーテイスト・トークに参加。ステージ上のパーカッションとグレニーを同一のステージ上で、半円状に参加者が囲んで進行していく。
 グレニーは、耳が不自由なパーカッショニスト。幼少時、いきなりパーカッションを渡され、表現の方法を習得していく。唇を読む能力が完璧で、正確にしゃべることが出来る。
 たった1音叩き出すだけで、大ホール全体の空気がピーン静止する。
 ぼくたちには、聴こえない音空を、グレニーは創出し、聴きとる。肉体と精神が全的に耳となる__
 ストム・ヤマシタについて、質問してみる。どうも、意図が完全に読まれてしまったようで、「音楽は、ジャンルで聴くもんじゃない」という結論が帰ってくる。
 で、エヴェリン・グレニーは、スコットランド出身。バルトーク『2台のピアノと打楽器のためのソナタ』でグラミー賞。さらに、ベラ・フレック(バンジョー)との共演で再びグラミー賞。世界中のオーケストラとの共演のほか、スティングや鼓童とも共演。音楽とは、身体全体で聴くものであることを知る一夜ではあった。
 続いて行ったライブでは、6月8日、渋谷・公園通りの<クラシック>。かつての<ジァン・ジァン>である。そう、あの山手教会の地下。ぼくが初めて<ジァン・ジァン>で聴いたのは、津軽三味線の高橋竹山である。70年代の初めといえば、高柳昌行(g)、阿部薫(as)、高木元輝(ts)、安田南(vo)らも出演。
 その夜の出演は、坂田明トリオ。ゲストが古谷暢康である。想えば、坂田を初めて聴いたのは、70年代初頭、渋谷<プルチネラ>である。
 「ミジンコと人間」の違いは、「学習するか否か」だと知る。坂田明トリオの世界は、とてつもないスケールの鎮魂歌である。人類という生命体に対する荘厳なるレクイエムである。おろかなる文明に対する壮絶なアイロニーでもある。
どこまでも本気で、限りなく真実である。

 

 さて、坂田明と古谷暢康とのデュオはといえば、正直なところ、完全燃焼不発に終わる。
 というのは、あの震災から3ヶ月という情況を踏まえての、完成度の高いレクイエムと、全肉体、全精神をかけたインプロバイズド・ミュージックというコンセプトが、ハナから交感し合う可能性は、ないということでしょう。
 インプロバイズド・ミュージックとは、肉体と精神を全的にかけた死闘だと知る。
 あの完全なるインプロバイズド・ミュージック(3月19日、at the Bitches Brew for hipsters only)がいつの日か、陽の目を見る日が待ち通しい。
 唐突ではありますが、つくづくプロデューサーの力は、大変なものがあると思う。
 坂田明をヨーロッパのインプロバイズド・ミュージック・シーンに、デビューさせたのは、エンヤ・レコードのホルスト・ウェーバーである。たまさか、1975年の楽旅に同行したことがある。
 写真は、左より森山威男(ds)、山下洋輔(p)、坂田明(as)。そして、右端がホルストである。撮影は、アーヘンであったと思う。
 デュッセルドルフ郊外のメルスで山下洋輔トリオと落ち合う。ホテル、プレス・パス等は今回の楽旅のプロモーター=マネージャーでもあるホルスト・ウェーバーが手配してくれる。
 時は1975年5月16〜19日。第4回インターナショナル・ニュー・ジャズ・フェスティバルが、古い城の跡で展開。参加ミュージシャンは約80人。グループ数は19。国籍は13。
 アルバート・マンゲルスドルフ(tb)、ハン・ベニンク(ds)、アンソニー・ブラクストン(マルチ・リード)、アレキサンダー・フォン.シュリッペンバッハ(p)&グローブ・ユニティ・オーケストラ、ノア・ハワード(as)、ペーター・ブロッツマン(マルチ・リード)、マンフレット・ショーフ(tp)、ケニー・ウィーラー(tp)、加古隆(p)、そして、山下洋輔トリオ、等々。
 すくなくとも、1975年において、メルスは、“センター・オブ・ザ・ワールド”である。
 いまも、メルスは、熱く燃えているのか?昨年、エヴェリン・グレニーがインプロで出演したときくが、ほとんど情報は入って来ない。未だ、メルスが“ニュー・ジャズ”を志向しているとは思えないけれどもね。
 1975年において、メルスで最も突出した空間を表出したのは、山下洋輔トリオである。その仕掛人、ホルスト・ウェーバーは、エンヤ・レコードのプロデューサー。とにかく、タフで、クールである。

__エンヤの創設は?
「1971年、ジャズが大好きなマティアス・ヴィンケルマンと創設しました。第1作が『ザ・コール』、2作目が『ブラック・グローリー』。いずれも、マル・ウォルドロン(p)です」
__ライバル、ECMについては?
「同じく、ミュンヘンにあって、たくさんいいアルバムを出していますね。とくにキース・ジャレット(p)やチック・コリア(p)のソロがいい。まあ、これは個人的見解ですけど、『リターン・トゥ・フォーエバー』はどうもね。コマーシャリズムに乗っちゃって、売れればいいって感じがしちゃって、好きじゃない」
__マイナー・レーベルについては?
「マイナー・レーベルという考え方は日本だけで通用するものです。かつては、みんなマイナー・レーベル=スモール・カンパニーで始まってるわけです。たとえば、FMPにしても、今は、ドイツ・フォノグラム。ドイツ中、どこのレコード屋へ行っても買えます」
__バース(Birth)については?
「あれは、ギュンター・ハンペル(vib)のプライベート・レーベル。不思議な存在です」
 いま、時代はインディーズ。ジャズ情況=シーンが、ここまで疲弊化してくると、プライベート・レーベルの、ミュージシャン自身による手売りという生きようしかないのでしょうか。
__日本のジャズと、ドイツのジャズの大きな違いは?
「ドイツでは、ほとんどのミュージシャンが、アバンガルドをやっているってことです。ドイツでは、普通のジャズ・ミュージシャンというのは、見当たらない」
__日本のジャズ・フェスティバルとドイツの大きな違いは?
「ドイツでは、いずれもスポンサーが市の文化委員会、つまり、地方税というわけです。クラシカルも含め、現代の芸術に対し、深い理解があります」
__山下洋輔トリオのことは置いといて(笑)、日本のミュージシャンで注目されているのは?
「私が一番聴いているのは、日野皓正(tp)。73年、日野クインテットを私がプロモートして4週間ヨーロッパを廻りました。チャールズ・トリヴァーやウッディ・ショウよりはるかに素晴らしいアイディア、テクニック、フィーリングを持っている。人間的にもいい。世界のベスト・トランペッターです。
 あえて、3人選ぶとすれば、あとは、山下洋輔(p)、佐藤允彦(p)ですね」
__ベルリン・ジャズ・フェスティバルにおける佐藤允彦のトラブルをご存知ですか?
「ええ、知っています」
 時は1972年ベルリン・ジャズ・フェスティバル。会場は、何と学生食堂。ピアノのチューニングすらされていなかった。佐藤トリオは自前でベルリンへ行ったにもかかわらず、結局、演奏できなかったというわけです。佐藤の前に出演したのは、ハン・ベニンク(perc)。ピアノとはまったく無縁である。
 おなじく、1972年ニューポート・ジャズ・フェスティバル/ニューヨークでの日野のトラブルは、ご存知ですか?
「もちろん、あれはジョージ・ウェインが悪い。ギャラは支払うべきだ!」
 やはり、自前でニューヨークへ行った日野クインテットは、カーネギー・ホールに出演が決定。それもデューク・エリントン楽団の前座。ところが、後座に廻されてしまい、ほとんどの客が帰ってしまう。
 どうも、ハナシがシンキくさくなってきたようで、話題を変えよう。

 

__南アから亡命したダラー・ブランド(p)、いいですね。
「私にとってのジャズ、ジャズ・フィーリングというのは、アフリカを基調としています。ダラー・ブランド自身は、ジャズという呼び名にこだわっていませんが。ダラー・ブランドにとっては、“ジャスト・マイ・ミュージック”」
__ジャズといういいようは、死語となりつつあるように思われますが。
「ジャズではなく、「ジャスト・ミュージック“であることを考えることは、決して無意味なことではありません。
 歴史的に見て、ジャズはアフリカン・ニグロの一言語。“ス・ケ・ベ・ハウス” (笑)というところで演奏されていました。ヨーロッパでも、日本でもジャズという言葉を使いますが、少なくとも、アメリカのミュージシャンは、ジャズという言葉を使わない傾向にある。
__新しいジャズのエレクトリック化については?
「私は、好みとして、エレクトリック楽器、サウンドは認めない。“アメリカンCBS・コマーシャル・エレクトリック・ミュージック”は受け付けない。たとえば、マイルス・デイヴィス、ウェザー・リポート、ハービー・ハンコックらです。
 マクラフリンにしたって、イギリス時代の『エキスプレッション』(Polydor)なんて、本当に美しい音楽を残しています」
__ドイツのジャズの現場について。
「ドイツには、東京のような大きな都市がありません。ミュンヘン、ベルリン、デュッセルドルフ、フランクフルト、ハンブルグ、といったところにそれぞれ1カ所ぐらいしか、ジャズ・クラブはありません。毎晩、生演奏が行われますが、小さなところでは、週末しかやっていません」
__アバンガルドは?
「地方の方が、楽しみでやってる店が多いの、盛んです。日本とドイツとの大きな違いは、イベントの数が、ドイツの方が圧倒的に多いということです」
 いま、パッケージ・メディアの危機が叫ばれて久しい。自分の皮膚感覚でしか、実感というものを覚醒できない不器用な生きようをしてきたものにとって、感性というアンテナをより鋭敏化するしかないのだろうか?情報は量ではなく、質である、なんてね。

Enja Recordsに登場する日本人ミュージシャンたち(共にサイトに掲載分):
Enja(マティアス・ヴィンケルマン):
富樫雅彦(perc)『Triple Helix』
菊地雅章(p)『Triple Helix』
日野皓正(tp)『Triple Helix』他1作
藤井郷子(p)『The Future of the Past』他1作
笹島明夫(g)『Humpty Dumpty』
Enja HW(ホルスト・ウェーバー):
山下洋輔(p) 『Tribute to Mal Waldron』
高瀬アキ(p)『something sweet, something tender』 他全11作
日野元彦『It’s There』
早坂沙知(sax)『2.26』
三宅純『Stolen from Strangers』他1作
平林牧子『Hide & Seek』他1作

杉田誠一
杉田誠一:
1945年4月、新潟県新発田市生まれ。
1965年5月、月刊『ジャズ』、
1999年11月、『Out there』をそれぞれ創刊。
2006年12月、横浜市白楽に
cafe bar Bitches Brew for hipsters onlyを開く。
http://bitchesbre.exblog.jp/
著書に『ジャズ幻視行』『ジャズ&ジャズ』
『ぼくのジャズ感情旅行』。
http://www.k5.dion.ne.jp/~sugita/cafe&bar.html
及川公生のちょっといい音空間見つけた >>

♪ Live Information

6月 Dedicated to 金井英人(b)
7月 Dedicated to 沖山秀子(vo) “Summertime”
8月 LAST DATE
JAZZ TOKYO
WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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