Vol.73| 坂田 明
メルス・ニュージャズ・フェスティバル 1975
text by Seiichi SUGITA




 よく行くコンビニ<セブン・イレブン>で『ぴあ/最終号』を買う。『ぴあ/創刊号』の保存版が入っていて、ついついそそられる。じつは、『ぴあ』を購入したのは、これが初めてのこと。
 まあ、『ぴあ』があってもなくても、情報弱者の私にとっては、関係のないことではありますが__
 時代は少しさかのぼるけれども、1970年代までに、たとえば松本俊夫『映像の発見』(三一書房)に出てくる映画はほぼ完璧にみている。
 なにせ、映画館とジャズ喫茶が学校だったからね。
 ジャズに関していえば、情報源は、レコード店へと向かう。今はなき、新宿<マルミ>、新宿<オザワ>なんて、コアだったね。とくに、<マルミ>なんて、欲しいLPを売ってくれないのである。「コルトレーンの『アゲイン』ありますか?」「あるけどねえ、キミはライブにも行ったし、もう何回も聴いているじゃろう」
 ここで、コルトレーンの直筆サインの自慢話がえんえん始まる。
「キミのために今日は、特別にとっておいたものがあるんじゃ」
 有り難く、お礼を申し上げ、ESPを5、6枚買って帰る。それから数ヶ月後、再び<マルミ>へ。
「この間のESP、全部凄かったです。なかでも、『ムーブメント・ソウル』が最高です」
『ムーブメント・ソウル』は、黒人解放運動のドキュメンタリー。アジ演説と、参加者の応答が、完全に、教会音楽にオーバーラップするのです。
「今日は、友だちからたのまれてしまいまして、あの『Again』ありますか?」
「キミが聴くんじゃないのね」
「はい」
「それならいいじゃろう」
<マルミ>は最初、<紀伊国屋書店』の並びの、<マルミ洋品店>のビルに入っていた。このビルのオーナーが開店したのが、<ピットイン>である。その後、<マルミ>は花園神社の並びにある犬屋の隣りに移転。花園神社は、唐十郎の赤テントが拠点としていた神社である。
 そうそう、<紀伊国屋書店>のホールでイングマル・ベルイマンの作品はすべて見ました。なかでも、『不良少女モニカ』の新鮮なモノ・クロが未だに忘れられない。
 さらに、コアなレコード店はといえば、大阪<LPコーナー>である。ぼくにとっては、一番の情報の宝島、宝庫である。とくに、ヨーロッパのインディーズに強い。
 ぼくの記憶では、確か1971年だったと思う。<LPコーナー>の大谷真一(社長)から突然、電話が入る。
「東京に、もの凄いアルトがいるそうで、聴きに行きませんか?」
<LPコーナー>の情報アンテナは、日本のニュー・ジャズ・シーンも掌握している。
 そこは、渋谷<プルチネラ>。完全なインプロバイズド・ミュージック。それもソロである。精神の表出のメルクマールに対して、肉体と楽器の限界に挑んでいる。
 今回、発表する写真は、1975年メルスのニュージャズ・フェスティバル。
 71年というと、坂田明は細胞分裂というユニットで活動。山下洋輔トリオに参加するのは、翌72年。ぼくが初めてソロを聴いたのは、70年であったかも知れない。高木元輝(ts,fl,b-cl) や沖至(tp)と坂田が共演したのは70年のはず。
 最初のユニット“細胞分裂”と現在の“ミジンコ”とのかかわりは、ある意味で一環したコンセプトにある。よく知られているところではあるが、坂田は1945年、呉生まれ。広大水産学部を出ている。
 ぼくにとっての坂田は、阿部薫以降、最も突出した存在である。阿部が狂気=感情に流されるきらいがあるとすれば、坂田は絶対にコントロールすることができる。情念のコルトレーンとエリック・ドルフィーのクールなあり方との違いであろうか?
 完全なるインプロバイズド・ミュージックは、クールでなくてはならないってわけ。
 75年5月、独・メルス〜アーヘンで、坂田とよく話す。大学は自動車部の主将であり、マラソンの監督でもあった。
 帰国後の7月、事務所<オフィス・ワン>でインタビューは行われた。
__楽器を始めたのは?
「高校時代のブラバンです。クラリネットが最初です」
__ジャズに興味を持ったのは?
「『墓にツバを掛けろ』を見てですね。イカしてるなあって思って。大学に入ってから、アルトを吹出しました」
__細胞分裂以外での活動は?
「ミッキー・ガーネット(米・チェロ)とやったりしましたが、ほとんどがソロですね」
__フリーを志向するようになったのは?
「東京に出てきてからです。自分が演(や)りたいように演っていいんだってことです」
__とくに影響を受けたレコードは?
「『ミンガス、ミンガス、ミンガス』(Impulse)です」
__生(ナマ)では?
「ミュージシャンになろうとして初めていろいろと考えさせてくれたのが、ジョン・コルトレーンです」
 コルトレーンとの出会い(大学時代)が、オーネット・コールマン、セシル・テイラー、アルバート・アイラーへと向かわせる。
__フリーとは?
「僕には、エリントンを聴いてもフリーに聴こえるわけ。パーカーを聴いても音楽というものは、形態じゃないと思います。形態はファッションですからね。

 

__70年代前後に突出したフリー・ムーブメントとのかかわりは?
「まったく、かかわりがありません。時期的にズレているのです」
__山下トリオに入ったきっかけは?
「森山(威男)さんからTVの『藤純子の引退記念番組』に誘われたことです。
__山下トリオで学んだことは?
「たくさん学びました。三人で一緒に生活する(旅)ことが多いんですが、山下さんは、音楽のことはまったく話さない。
 相手の音を聴けばすべて分かるわけですよ。お互いに会話しているわけですから。問題は音の中で話すということです」
__日本とヨーロッパの聴衆の違いは?
「『坂田、死ぬまでやれ!』ってヨーロッパの言っているんですね。日本人は割と引っ込み思案でね。オープンじゃない。
 ヨーロッパでは聴く側がフリーを望んでいる。リラックス、解放、個人主義...徹底しているんですね」

 ぼくは、1週間ほど山下洋輔トリオの独ツアーに同行。トリオの楽旅は、7週で、公演は30数回にわたる。
__メルス以外で、最もいい場所は?
「ベルリンノ“ジャズ・イン・ザ・ガーデン”です。ナショナル・ギャラリーの中庭なんですが、たくさんの彫刻があるんです。控え室には、セザンヌ、ゴッホ、ダリなんかがかかっている。
__何故、ヨーロッパでフリーが受け入れられるのか?
「フリージャズをやる土壌がありますね。聴衆が望んでいる。しかし、セシル・テイラーや、ぼくたち山下トリオが生まれる素地はない。やはり、ニューヨークや東京のような、ゴチャゴチャした生命力あふれた場ではないと思います。
__日本とヨーロッパの大きな違いは?
「ヨーロッパでは、ミュージシャンが、自身がフリーになってしまうケースがある。音楽がフリーになるんじゃなくってね(笑)。
 まあ、悲壮感とおうか、対話姿勢がないよ。しばしば、何故あれだけのパワーとコンセトレイションを持続できるのかと聴かれるが、即、禅だとか、空手だとかと結びつけようとする(笑)。
 だったら、ヨーロッパと日本をお互いに行き来して、その落差を埋めようと思う。ヨーロッパに行ってもオレは「人間」だという気持ちで音楽を続けていたい」
__坂田さんにとって音楽とは?
「演奏と生活は一体化していく方向にあります」
__練習時間は?
「1日、2〜3時間です」
__音楽とスポーツ性との関連は?
「走りながら、瞬間的に味方の動き、相手の動きを全部見ているわけです。で、自分が一番有効な動きをする。まあ、結局は即興です」
__いつも一貫している!!
「やっぱり、自分がミュージシャンになった最初の気持ち。自分はコレしかないから、コレをやるんだという。サックスを吹くことしか自分にはない。いまも、これしか自分にはないという気持ちは、今も変わりません。楽しく生きたいからね」
__お使いの楽器は?
「アルトは仏セルマー、クラリネットはクランポンです」
__リードは?
「ラボールのミディアム。マウスピースはメーヤーミディアムの6番です」
__しこいようですが、坂田さんにとって、フリーとは?
「自分のやりたいことをつかんで、一番良くやれること。繰り返しますが、形態ではないのです」
__これからのミュージシャンに対するメッセージは?
「自分でやりたいと思うことは、できる限りやりました。とにかく、やるという精神力を培うことが大切。楽器をコントロールすることを自分で勉強しなければならない。まずは、ド・レ・ミ・ファ...をとことんやる。いくらやっても、乗り越えられないことはある。それでも、タイミングの問題とか、楽器の基本的問題が見えてくれば、乗り越えられます。音楽的なおもしろさが出てくるわけです。そして、スピードとか集中力を保ちながら、なおかつ、自分の出している音が全部見えて、コントロールしていく。そこで、初めて音楽というものが始まる。
__前衛(ジャズ)とは?
「自分がやっているのは、前衛とは思いませんね。フリーの考えも、もう古い。
すでに、ジョン・ケージが音楽の世界をひっくり返している。『音をださない』」んだから、まだ前衛です。だが、僕はジャズというものにこだわっている」

 ともあれ。『坂田明 vs ●●●● at the Bitches Brew』のCD化が待ち遠しい。完全なるインプロバイズド・ミュージックのめくるめく交感である。
 いま、坂田明は、震災地で演奏しているときく。『ぴあ』がなくても、パソコンに触れなくても、必要な情報はしっかりとキャッチできるということです。

註:ボブ・ディランが、エレクトリック・ギターを導入し、フォーク・シーンを変革したのは、同じくニューポートのフェスティバル・フィールドであり、1965年のことである。
ブーイングで頭に来て、プレイを中断してしまうボブをPPMがなだめすかし、続演させるというすこぶる興味深い映像が残っている。

杉田誠一
杉田誠一:
1945年4月、新潟県新発田市生まれ。
1965年5月、月刊『ジャズ』、
1999年11月、『Out there』をそれぞれ創刊。
2006年12月、横浜市白楽に
cafe bar Bitches Brew for hipsters onlyを開く。
http://bbyokohama.exblog.jp/
著書に『ジャズ幻視行』『ジャズ&ジャズ』
『ぼくのジャズ感情旅行』。
http://www.k5.dion.ne.jp/~sugita/cafe&bar.html
及川公生のちょっといい音空間見つけた >>

♪ Live Information

8/5 Fri 大由鬼山(尺八)
8/6 Sat “インプロ・ジャム・セッション”
●●●●(ts,fl, cl)
8/12 Fri 小島伸子(vo) 愛川 聡(g)
8/13 Sat “Dedicated to 金井英人”
福田みすず(ポエトリー・リーディング)
さがゆき(vo) 高木潤一(g)
JUNマシオ(MC、笛、vo, perc)
8/19 Fri 竹内 直(ts,fl, bcl)
8/20 Sat “モチ・ラボ”
望月 孝(ds) 他
8/26 Fri Soon Kim(as) 井野信義(b) 小山彰太(ds)
8/27 Sat 鈴木公二(ts) 龍見将民(尺八)
8/28 Sun 17:99〜
斎藤 徹(b) ●●●●(fl)
8/5 Fri 大由鬼山(尺八)
9/9 Fri G2us(高谷秀司 g+マサ大家g)
10/2 Sun 沖 至(tp) ●●●●(cl,ts,fl,bcl)
10/9〜
10/10
Sun
Mon
ジャズ・プロ(午後の部/夜の部)
“ラスト・デイト”●●●●(cl,ts,fl,bcl)
JAZZ TOKYO
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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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