Vol.29
ウェス 名月 日本の宴




人は、様々な景色に自らの思い出をことづけながら成長し年をとる。
だから追憶のよすがとなる情景はそのままであって欲しいと願う。

父と二人で月を見ていると、唐突に
「お父さんって、何でもできる?」
「うーーん?」
「じゃ、あの月とって...お家においとこーよ...。」

名月を取ってくれろと泣く子かな  一茶

その時に、BGMで流れていた曲が、名曲中の名曲...
Moonlightセレナーデ
それも、ウエス・モンゴメリィーの秘蔵のテイクだった。
まさしくそれが、
私が、JAZZに傾倒していったきっかけである。
そして
音楽と情緒的な世界、風景が一体となっていった象徴的な出来事だった。
今でも、月を見ると、自然と、この曲が鳴り響く...

天地爽涼、昼をあざむく月光だ。秋風が吹き乱れ、露の玉が光り、虫の声が仕切りで秋の風物の舞台装置がそろっている。

名月や池をめぐりて夜もすがら 芭蕉

池に映った満月の美しさに心を奪われた芭蕉が、一晩中でも池の周囲を歩いていたい心情が良く詠われている。しかもこの月は、単なる満月ではなく、名月であるところに重みがある。

森川許六(芭蕉の弟子の一人)が「名月は十五日一夜なり、明月を四季に通ず」と書き記している。
(ちなみに、西行が「願わくば花のもとにて春死なんその如月の望月のころ」と詠った春の満月は、名月とは言わない。)
他の季節の満月は、「明月」「望月」である。
「名月」と書けば、旧暦8月15日(新暦、現在の暦で9月18日)の夜の満月のことである。
かけがえのないたった一夜の月である。

月々に月見る月は多けれど 月見るつきはこの月の月
月ごとに見る月なれどこの月の 今宵の月に似る月ぞなき
いつとても月見ぬ秋はなきものを わきて今宵のめづらしきかな

まさしく、ウェスは、たくさんいるミュージッシャンの中で私にとっては、たった一つの名月である。
音楽的に、なぜそう思えるのかは別の機会に譲るとしても...。

さて、中秋の名月というのは、秋の九十日の真ん中という意味である。
中国では中秋節の行事を行ってきた。日本に伝えられたのは平安時代である。
西暦909年(醍醐天皇の延喜9年)にはじめてその行事も行った。中国にならって、詩歌管弦の宴を行ったのである。

この宴は、後世、様々を変えて語り継がれ、実際に引き継がれている。
日本列島をながめてみよう。まずは、南から。
沖縄県では、親族が集まって十五夜を祝った後、女たちが広場で踊る風習がある。その後何が起こるかは、実際に行って確かめてみてください...ウフフ...
鹿児島県では(川辺郡知覧町)、月が昇ると、綱引きをする。子供組とおとな組が東西にわかれ勝負する。月の御加護を受ける東の子供組が必ず勝つことになっている。
そのあとは子供たちのソラヨイ(それはよろしいの意)という踊りと相撲大会が行われる。
さあ、次は大分県。大分と言えば岡城。岡城といえば、滝廉太郎。大手門をくぐってすぐに、滝廉太郎(郷土の作曲家)の像と『荒城の月』の詩碑がある。
...城下町、竹田は落ち着いたたたずまいを今に残している。
さすが豊後の小京都と言われるだけある。
さて、宴のほうだが、観月の中、火祭りが行われる。松明投げ。月を愛でながら萱の束を振る火振り。
三味線、野だてのお茶、花火大会。小京都、竹田ならではの風情がある。
福岡はどうか。福岡県太宰府では、天満宮で神幸祭が行われる。
『竹の曲』という古風な芸能が、奉納される。この竹の曲は、古来六座と称される家々によって伝承されている。
子供が、笛、締太鼓の演奏に合わせて舞う。まるで、絵巻物を想起させられるような行列が、あどけなく美しい...。

私には、ウェスが、こういう東洋の本質的な文化をもすべて包含しているように思えてならない...。
心から、限りなく、ウェスを尊敬する...。

高谷秀司(たかたに・ひでし)
1956年、大坂生まれ。音楽家、ギタリスト。幅広いジャンルで活躍。人間国宝・山本邦山師らとのユニット「大吟醸」、ギター・デュオ「G2us」でコンサート、CDリリース。最新作は童謡をテーマにしたCD『ふるさと』。2010年6月から約1ヶ月間、オーストラリアから招かれ楽旅した。
www.takatani.com

JAZZ TOKYO
WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.