Vol.34
音楽の原点 心の交流 ヨーデルン




さて、前号の続きである。

三度目に私が、ヨーデルンを聞いたのは、ヘレネンタールに散策した時の事である。
美しい庭がある。緑の絨毯を敷いたような庭の端に、しゃれたプランターが置かれている。
よく見ると、それは古タイヤを形よく切って赤や白のペンキを塗ったものである。
使い古した荷車が、さりげなく置かれていたりもする。これも大型のプランターに仕立てられていて、荷台の上には、色とりどりの花を植えた小鉢が、並べられている。
そこには、一組の男女がいた。
盛んに歌ったり、踊ったりしていた。きっと恋人同士だろう。...本当に息が合っている。
彼らは、パンタレオン(ピアノの一つ以前の楽器)や、ギターを弾いていた。
そして、そのうち男性のほうがヨーデルンを歌った。
これは、少し、素っ頓狂だけれどもやわらかく、熱き魂の叫びがあった。
私は、彼に、おそるおそるヨーデルンの歌詞を教えて欲しいと頼んだ。
歌の題名は、忘れてしまったのだが、歌詞は「ホリデイ・ウリ・ウリ」というフレーズを繰り返すだけだそうだ。
これは驚きである。
こういう単純な繰り返しだけなのにどうしてこんなにも説得力があるのだろう...。
ブルーズやゴスペルの単純なリフレインから湧き出てくる心の呻きにも相通じる世界である。

I wake up this morning
my baby was gone
I wake up this morning
my baby was gone ...

さて、彼らは、私が日本人であることを知って、珍しがり、大変興味をもってくれた。そして、「日本の歌を一つやってみろ。」と言った。
私は、「悲しい酒」を歌った。
そして、パンタレオンでリズムをつけて、「河内音頭」と「ハイサおじさん」「あこがれのハワイ航路」を弾いた。
「悲しい酒」は、彼らを大変喜ばせた。
「こんなに美しいメロディは、ドイツの民謡には、まずありえない」と、ほめてくれた。
まんざらお世辞でもあるまい。
また、河内音頭は、「これなら踊れる」と賛美した。そして、自然に踊りだした。

このあたりにはレンドラーという踊りがある。
...レンドラー 13世紀頃から今日のチロル州、バイエルン州の農民が踊っていたヴェッラー(weller)から発展した民族舞踏。
二人一組で飛んだり、跳ねたりもする踊りである。
レンドラーの伴奏音楽はインストの時もあれば、ヨーデルンのような歌が混ざる時もある...。
彼らは、私に、「レンドラーを教えるから河内音頭でおどってみて」と言う。
ヘレンタールの森の木かげで、河内音頭でレンドラーを踊るのも悪くない。

これを、真の心の交流と呼ぶのだろうか、まさか...でも本当に面白かった...
今でも、彼らのこと、そしてあのヨーデルンのことは時折思い出す。

ヨーデルンというのは、おそらくウィーンや南ドイツの山国の人々が山で大きな声を出して、お互いに呼び合っていたのが始めであろう。
心通ずるところとスキルの洗練があり、だんだん歌の形になったのだと思う。
始めは、南ドイツのヤッホーのようなものであったのかもしれない...。


以心伝心とは言うけれども、ヨーデルンの想いで呼び合ってみると、もっと心が開けると思う。

これは、音楽の原点かも...。

高谷秀司(たかたに・ひでし)
1956年、大坂生まれ。音楽家、ギタリスト。幅広いジャンルで活躍。人間国宝・山本邦山師らとのユニット「大吟醸」、ギター・デュオ「G2us」でコンサート、CDリリース。最新作は童謡をテーマにしたCD『ふるさと』。2010年6月から約1ヶ月間、オーストラリアから招かれ楽旅した。
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