『キース・ジャレット・クァルテット/スリーパー』
text by Kimio OIKAWA

ECM/ユニバーサル UCCE-1152/3
3,600円(税込)


キース・ジャレット(p, perc)
ヤン・ガルバレク(ts,ss,fl,perc)
パレ・ダニエルソン(b)
ヨン・クリステンセン(ds,perc)

CD1 :
パーソナル・マウンテンズ
イノセンス
ソー・テンダー

CD2:
オアシス
チャント・オブ・ザ・ソイル
プリズム
ニュー・ダンス

録音:ヤン・エリック・コングスハウク@東京・中野サンプラザホール、1979年4月16日
ミキシング:ヤン・エリック・コングスハウク+マンフレート・アイヒャー@レインボウ・スタジオ、オスロ、2012年
プロデューサー:マンフレート・アイヒャー
コンサート制作:鯉沼利成(あいミュージック)
協力:トリオ・レコード/ECM/Bose

アナログ録音でしか出し得ない音の深みと重厚さが耳に響く

これは、当時(1979年)アナログ・マルチで録音したものである。ライブ録音の現場にいた記憶から、信じられない音の発散を聴く。
ECMらしい音像空間を保ちながら、元となるアナログ録音でしか出し得ない音の深みと重厚さが耳に響く。ECMのポリシーを貫きながらも、デジタル化以降には聴かれなかった音が潜んでいるのだ。しかもアナログ音源の復刻盤でさえ、聴くことがなかった音質がここにあるのだ。謎だ!
ミックス時に閃いた謎の仕掛けか。マスタリング技術の証か。エンジニア、エリック・コングスハウグは、またしてもサウンドの新たな仕掛けに挑んでいる。
ピアノの音。ハンマーのフェルトの堅さをも感じられる音の弾み。これがたまらない。いかにもECMといえるピアノの音造りの根底に潜む音は、過去のアナログ時代のマスターにリバーブを加味して輝きを造成しても、このようには仕上がらない。
ベースの深みのある低音部の重厚感。撥ねた音から重みを感じる。
ドラムもまったく同様な展開。シンバルのアタックと金属特有の堅さに反応する余韻。デジタル化以降、どうしても出なかった音が、ここにある。タム、スネアー類の骨格の図太さを連想させる音質は元がアナログだけでは語れない。
サックスは、当時用いたマイクの素質、そのままの音質である。音質の統一感から見て、不思議のひとつだ。彼は管楽器に対しては興味をそそられないのだろうか。
しかし、実に手の込んだミックスだ。音楽の表情を、水彩画のようにリバーブ処理した透明な響きの拡散。トゥッティーの混濁感に対しては、極めて少量ながら暖色系のリバーブで対応している。発売まで時が経っていながら、つい、この間のように記憶がよみがえった。

及川公生:1936年、福岡県生まれ。FM東海(現・FM東京)を経てフリーの録音エンジニアに。ジャスをクラシックのDirect-to-2track録音を中心に、キース・ジャレットや菊地雅章、富樫雅彦、日野皓正、山下和仁などを手がける。2003年度日本音響家協会賞を受賞。現在、音響芸術専門学校講師。著書にCD-ROMブック「及川公生のサウンド・レシピ」(ユニコム)。

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