Vol.37
大和心 魂のふれ合い〜二胡奏者 桜島文風




江戸のしぐさには、日本人の本来もっている思いやりが形として残っている。
たとえば、
「傘かしげ」 雨の日には、傘を外側にすっと傾け、濡れないようにすれ違う
「こぶし腰浮かせ」 こぶし分だけ腰を浮かせて、席を詰めてあげましょう

こんな優しさにあふれた二人のミュージシャン(演奏家)に出会えた。
一人は、桜島文風さん。
今でも、こんなに可憐で奥ゆかしい日本の人がいたなんて。
二胡の奏者である。
素晴らしい音色の奏者である。
正直、今まで、二胡の奏者と競演して良い思い出はなかった。
でも、桜島さんと出会ってすべてのことが超克された。
人の出会いというものはなんと素晴らしいものか。そして縁というものは不思議なものである。
はじめてリハーサルをした時に、何かにひっぱり込まれる思いになった。
こんなことは尺八の人間国宝・山本邦山と演奏して以来の経験だ。
音(二胡)と音(ギター)で合奏しているのだけれども、そういうものを超えた心と心のつながりやきずなを感ずる。あえて楽曲をやる必要すらない。
インプロヴィゼイション。
本来、音楽というものはこういうものではなかったのか。
たまたま私はギターという楽器を弾き、たまたま彼女は、二胡という楽器を弾いている。
人類が植物のつるをはじいたのがきっかけで弦を使う楽器。ギターと二胡というそれぞれ進化の形は違うけれども、楽器の形や各々の手技や技量を超越した魂と魂の語らい。
内奥の心の叫びの紡ぎ合い。音楽家として生まれて来て今までにこんなに至高の体験があっただろうか。もはやお互いに楽器のえんそうではなかった。
これは、大げさな言い方かもしれないけれども、運命的な出会いだと思う。
この出会いが先日(11月11日)オーディエンスの前で結実した。
中目黒の『らくや』(楽屋)というライヴホール。手前味噌な言い方かもしれないが、二人の「気」がオーディエンスを包み、どこか遠くの世界まで魅了した。
それはひとえに桜島文風さんの優しさ、日本人が元来もっている江戸しぐさのような本当の思いやり。彼女の心根が波動となって聴衆に伝播していく。
いつしか、どこにでもあるライヴホールが何か懐かしさの漂う、慈しみの空間に変わっていく...。
彼女は、私のことを絶滅種だという。「もう、日本にはほとんどいない本当の『大和心』を持った人類」だそうだ。
褒め過ぎだと思う...。
二胡奏者・桜島文風こそが、真の意味での本当の大和心をもった最後の人類だと思う。
ちなみに、当日(11月11日)に演奏した曲(私の作曲した曲)は、
(1) 「大吟醸」(人間国宝ユニット・大吟醸のテーマ曲:尺八が主旋の曲)
(2) オーロラ(ユニット・クオリアの名義でBSテレビ朝日「世界の名画」のエンディング・テーマとして現在放映中:バイオリンが主旋の曲)
(3) 「My Lover」(TV東京 D Liveメッセージのエンディング・テーマ:ギターが主旋の曲)
どの曲も見事な演奏だった。
(1)(2)は日本の古典美学「もののあはれ」の世界を、このふたつの曲を写し絵のようにして情趣深く表現していく。
(3)は、「をかし」の美学の世界を、機知に富んだあでやかな表現をしていく。
心と型が見事に合致し、到達した世界がそこにある。

来年、彼女はカナダに行ってしまう。
もう一人のミュージシャンについては、次回で。

高谷秀司(たかたに・ひでし)
1956年、大坂生まれ。音楽家、ギタリスト。幅広いジャンルで活躍。人間国宝・山本邦山師らとのユニット「大吟醸」、ギター・デュオ「G2us」でコンサート、CDリリース。最新作は童謡をテーマにしたCD『ふるさと』。2010年6月から約1ヶ月間、オーストラリアから招かれ楽旅した。
www.takatani.com

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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