Vol.38 | ジョージ・E・ルイス@ベルリンジャズ祭2006
George E. Lewis @JazzFest Berlin 2006

 2月末のシカゴ・トリビューン紙に、ハワード・ライヒによる「AACM50周年を祝う」という記事が出ていた。
 AACM(Association for the Advancement of Creative Musicians:創造的音楽家の発展のための協会)が、シカゴのサウスサイドでNPOとしてスタートしてから50年とは。
 ジョージ・ルイスの大著『A power stronger than itself - The AACM and American Experimental Music』(The University of Chicago Press 2008)の記述からすると、組織としてのAACMは1965年初頭スティーヴ・マッコール家のキッチンでの会話からスタートしたといっていい。この本に書かれている設立に向けてあれこれ方策を探る設立メンバーの言葉、その録音が残っていたという5月8日の第一回ミーティングの記述などは実に生々しく、一種のドキュメントとなっていて、その場に居るような臨場感があった。そして、1965年8月5日にNPOとして認可されるのである。
 初代会長ムハル・リチャード・エイブラムスを始め、アート・アンサンブル・オブ・シカゴ、エアー、アンソニー・ブラクストンなど設立間もない頃のメンバーは、まさに当時の前衛。最先端を走るミュージシャンが数多く参加していたということもあって、その活動はレコードなどを通じて日本にも伝わってきた。80年代ぐらいまでは、ジャズ雑誌などでAACMの名前は時折見かけたが、今世紀に入ると著名なミュージシャンはともかく、AACMという組織が取り上げられることは滅多にないように思う。再びAACMの名前が人々の口の端に上るようになったのは、ジョージ・ルイスの本が出た時だった。残念ながら邦訳がないために日本での認知度は低かったが、アメリカではThe Jazz Journalist AssociationのJAZZ AWARD 2009で最優秀ジャズ書籍に選ばれただけではなく、「いかなる制限も偏見も排除し、アメリカ合衆国の優れた文学作品に栄誉を与える目的」で設けられたアメリカン・ブック・アワードを受賞している。
 ところで、このAACM本を著したジョージ・ルイスとはどのような人物なのだろうか。
 稀にみる才人であることは言わずもがなだが、トロンボーン奏者であり、インタラクティヴな音楽ソフト“Voyager”の開発・演奏者、作曲家であり、オーケストラの指揮・指導も行っている。そして、マッカーサー・フェローシップを授与された“ジニアス”であり、現在はコロンビア大学の教授である。だが、その音楽的なバックグラウンドに目を向けるとAACMスクールで学んだシカゴ生まれのサウスサイダーで、AACMのメンバーなのだ。だからこそ、あの大著をものに出来たのだろう。
 多方面で活躍する彼はまたローカル、グローバルという枠組みを超えて活動し、ネットワークを拡張してきた音楽家でもある。ヨーロッパのミュージシャンとの共演も多い。ムジカ・エレットロニカ・ヴィヴァ、グローブ・ユニティ・オーケストラ、ICPオーケストラにもメンバーとして参加している。写真はベルリン・ジャズ祭でのグローブ・ユニティ・オーケストラ40周年記念ステージで撮影したもの。この時、AACM本の最終段階だったようで、「来年出すよ」と言っていたのだが、実際に出版されたのは翌々年だった。

 

 音楽的にも多分野で活動してきた彼ならではの、そしてAACMの遺伝子を感じさせるアルバムが手元にある。約10年前の作品だが、個人的に最も好きな作品のひとつ『SEQUEL』(Intakt)だ。2004年バーデン・バーデンのニュー・ジャズ・ミーティングに出演するにあたり、普段は顔を合わせることのない現代のインプロヴァイザー達、しかもアコースティックとエレクトロニクスを使用するミュージシャンによる共演を希望したことからこの企画が生まれた。このプロジェクトのために書いた作品が<Sequel>、なぜSequel=続編であり、レスター・ボウイへ捧げられているのか。1969年のニュー・ジャズ・ミーティングでドイツの著名な評論家・プロデューサー故ヨアヒム・ベーレントのプロデュースにより、アート・アンサンブル・オブ・シカゴのメンバーを始めとするアメリカのフリー・ジャズ・ミュージシャンとヨーロッパ・フリーの第一世代と呼ばれているミュージシャン(中にはアルバート・マンゲルスドルフやヨアヒム・キューン、ジョン・サーマンも)を集めてオーケストラを編成し、共演させるという前代未聞のプロジェクトが行われ、その時に演奏されたのがレスター・ボウイの<Gittin’ To Know Y’All>だったからである。いわばその21世紀版を彼はイメージしたのだろう。世紀が変わり、パラダイム転換が進む中で、バックグラウンドも活動領域もバラバラなミュージシャンが一同に介したこの企画は画期的だった。
 AACM本を出してからは、アカデミックな活動に主軸を移したのか、彼の演奏活動に関する話題をあまり見かけることはなかったが、昨年リリースされたワダダ・レオ・スミス、ジョン・ゾーンとの『Sonic Rivers』(Tzadik)で久しぶりに彼のトロンボーン演奏を耳に出来て嬉しかった。厚みのある音色と明晰な頭脳そのものの鋭敏な切れ味。そういえば1989年録音の『ニューズ・フォー・ルル』はジョン・ゾーンとビル・フリーセルとのプロジェクトだったなと、あの盤に刻まれたまさに時代を駆け抜けていく勢いをふと思い出つつ、現在進行形のニューヨークの音楽シーンでのベテラン勢の覇気を感じたのである。
 シカゴ・トリビューン紙の記事によるとAACM50周年がらみのイベントが今年数多く企画されているようだ。ジョージ・ルイスも「アフターワード」というAACMメンバーをフィーチャーし、インターナショナル・コンテンポラリー・アンサンブルが出演する実験的オペラを10月にシカゴ現代美術館で上演する予定である。どのような内容になるのか、可能ならばその場で見たい企画だ。まだまだ、現代の”ジニアス”の活動から目が離せない。

横井一江 Kazue Yokoi
北海道帯広市生まれ。The Jazz Journalist Association会員。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。海外レポート、ヨーロッパの重鎮達の多くをはじめ、若手までインタビューを数多く手がける。 フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年〜2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)。趣味は料理。本誌編集長。

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COLUMN
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#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
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