Vol.80|
追悼 サム・リヴァース
text by Seiichi SUGITA




“シャリコマ”という死語がある。かつての、大嫌いな例の業界用語である。
“シャリコマ”とは“コマーシャル”ということで、とくに日本のジャズ業界においては、「妥協」とか「魂すら売っちまって、目的は結局、金なんでしょ」ってな意味合いまでが含まれる。“コマーシャル”vs“反コマーシャル”という今やあまりに陳腐な関係性がまだ成り立ったのが1960年代から70年代である。体制に対する反体制という単純な構造がシンプルに成立するのである。「ジャズとはアンチ・コマーシャル」という信仰がまかり通る時代があるってわけ。いま、時代は、“シャリコマ”がどうしていけないわけ?って変わっちまいましたよね。
 始まりは、1971年のニューポート・ジャズ祭(ロード・アイランド州)の暴動である。伝統のジャズ祭が、高級リゾート地から追い出される。ニューポート・ジャズ祭は、場をニューヨークへ移すことになる。
 で、設立されたのが、ニューヨーク・ミュージシャンズ・アソシエーション。主宰はパーカッションのJUMA。とにかく、カッコいいんだよね。ロフト<スタジオWe>の、サニー・マレイ(ds)から紹介されたのは、1969年である。NYMAのオフィスは、<We>。コルトレーンの肖像があるのね。
 端的にいえば、アンチ・ニューポート・ジャズ祭をやろうぜってこと。アメリカ独立記念日/7月4日を前後して、ニューポート・ジャズ祭からお声のかからないアーチストが、こぞって参画する。いや、オファーを拒否したミュージシャンも多々(たとえば、アーチー・シェップ、ファラオ・サンダース)、反ニューポートに参画する。あの帝王マイルス・デイヴィスもアンチ・ニューポートである。
 マイルスは、とりあえずの場、<ヴィレッジ・イースト>(旧フィルモア・イースト)をロフトとして位置付ける。ロフトとは、ミュージシャンによる工房といいかえていいだろう。アンチ・ジャズ・クラブとでもいえば分かりやすいかしら。

 

 第1回ニューポート・ジャズ祭__ニューヨークとまったく同じ時期に、第1回ニューヨーク・ミュージシャンズ・ジャズ祭が開催。スタジオ<We>とともに拠点=ホームとなったのが、サム・リヴァースのロフト<スタジオ・リブィー>である。簡単にいえば、アンチ・ジャズ・クラブという明確なコンセプトがある。収奪も搾取も無関係の表現の場だってこと。サム・リヴァースは、ニューヨーク・イースト・ヴィレッジの超強力オーガナイザーとしてロフト・ジャズ・ムーブメントのしたたかなる旋回基軸としてその生のすべてをささげたといっていい。命を縮めてまでやるべきことを果敢に推進できたってことは、何よりも、サム・リヴァース自身が、ニューヨークのジャズ・ミュージシャンとして、自己に忠実に生きた証(あかし)である。
 イヤミというか陳腐ではあるけれども、また、ひとつの時代が終わったなんていいたくはないけれどもロフト・ムーブメントが終わっちまったとしたら__。1975年あたりだろうね。
“シャリコマ”とともに、“ロフト・ジャズ”も死語となっちまうんでしょうかね?!
 そうそう、ロフト・ジャズ・ムーブメントの最初の試練は翌1972年にはやくもやってくる。ニューポート・ジャズ祭側が、ロフト・ジャズ・ミュージシャンのために、セントラル・パークの<ウォルマン・アンピ・シアター>を提供したってわけ。
 いまや、“反体制”なんて死語ですよね。
 合掌!!
 ギュンター・ハンペル(vib)、ジーン・リー(vo)、ミルフォード・グレイブス(perc)らの脈動が、さやかに、脳裡をうずまく。
 そして、あのマイルスですら、自らの血とし、自らの肉となしえなかった、サム・リヴァースのソプラノ・サックスの孤高の自由さを生き延びるパワーとして、これからもね、ずっと。ぼくたちは生きる。

註)サム・リヴァースの写真は、月刊『jazz』1975年6月号からスキャン使用しました。

関連コラム;
http://www.jazztokyo.com/sugita-photo/vol36.html

杉田誠一
杉田誠一:
1945年4月、新潟県新発田市生まれ。
1965年5月、月刊『ジャズ』、
1999年11月、『Out there』をそれぞれ創刊。
2006年12月、横浜市白楽に
cafe bar Bitches Brew for hipsters onlyを開く。
http://hakuraku-bb.tumblr.com/
著書に『ジャズ幻視行』『ジャズ&ジャズ』
『ぼくのジャズ感情旅行』。
http://www.facebook.com/Hakuraku.BB
及川公生のちょっといい音空間見つけた >>


♪ Live Information
open 7:00pm/show 8:00pm


纐纈雅代 7Days@BitchesBrew
3/3 Sat 坂田 明(as) +纐纈雅代(as)
3/4 Sun 加藤崇之(g) +纐纈雅代(as)
3/5 Mon 竹内 直(ts) +纐纈雅代(as)
3/6 Tue 中牟礼貞則(g) +纐纈雅代(as)
3/7 Wed 市野元彦(g) +纐纈雅代(as)
3/8 Thu 林 栄一(as) +纐纈雅代(as)
3/9 Fri 石田幹雄(p) +纐纈雅代(as)

3/10 Sat TOMO(hurdy gurdy) サトウアキラ(liquid light)
3/16 Fri 大由鬼山(尺八)成田有子(p)
3/17 Sat “晋企画” 五十嵐 晋(as) 山内勝司(b) サトウアキラ(liquid light)
3/18 Sun “イエロー・ジャズ・プロジェクト” 南部直登(vo,g) 古川 直(b)
3/20 Fri “モチ・ラボ” 望月 孝(g) 他
3/21 Wed “伽藍〜アンビエント〜ドローン”
井上史朗(el-b) 山内勝司(el-b)
3/22 Thu 足立浩一(ds) 上田創史(p) 他
3/23 Fri BULL 松原(vo) 橋本啓一(p)
3/24 Sat 佐藤道子(cello)
3/25 Sun “マッキントッシュとアルテックで聴くブライアン・イーノ”レコード・コンサート
3/26 Mon 黒崎 隆(ds) 他
3/27 Tue 黒崎 隆(ds) 他
3/28 Wed 黒崎 隆(ds) 他
3/29 Thu Morry Burns (monosynth,cymbals)
3/30 Fri 山見慶子(p) JIBO(vo) JUNマシオ(ds)
3/31 Sat “詩とJAZZ”金子秀夫(ポエトリー・リーディング)福田美鈴(ポエトリー・リーディング) 望月 孝(g)

予告!
坂田 明 7Days@Bitches Brew 4月11/12/18/19/23/24/25
鈴木 勳 7Days@Bithces Brew 5月/1~5日、11,12日
林 栄一 7Days@Bitches Brew 6月/11~17日

問)Btches Brew 090-8343-5621(杉田)
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追悼特集
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今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレ ポート
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・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポ ート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
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第1回  伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


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「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
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オスロに学ぶ
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#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
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