Vol.39 | ウイリアム・パーカー@トータル・ミュージック・ミーティング2006
William Parker @Total Music Meeting 2006

 遅れて到着した会場のホールに入ると、耳馴染みのあるサックスが鳴り響いていた。その豪放なサックス音、浮遊するエレクトリック・トランペット、フリーながらもグルーヴ感のあるドラミング、そしてずっしりとした深いベース音がサウンド全体を支えていた。
 演奏していたのはペーター・ブロッツマンのグループ「ダイ・ライク・ア・ドッグ Die Like A Dog」、メンバーは近藤等則(tp)、ウイリアム・パーカー(b)、ハミッド・ドレイク(ds)。それが、ウイリアム・パーカーが演奏する音に直に接した最初だった。1994年のベルリン、トータル・ミュージック・ミーティング(TMM)のことである。
 ウイリアム・パーカーというと、セシル・テイラー・ユニット、あるいはデヴィッド・S・ウェアとのアルバムでの演奏しか記憶になかったので、その前年に録音されたブロッツマンのCD『Die like a dog; fragments of music, life and death of Albert Ayler』(FMP)にその名前を見つけた時は、彼がそこにいるのが不思議に思えた。実際、ニューヨーク・ロフトで活躍していたミュージシャンで、ヨーロッパのフリー・インプロヴァイザーと共演している人はそう多くはないからだ。アルバート・アイラーへのトリビュートという、それまでのブロッツマンのアルバムにはなかったコンセプトで演奏することが実現したのは、このメンバーなればこそだったことは間違いない。ブロッツマンの数あるアルバムの中でもこれはモニュメンタルな作品のひとつだと私は今でも思っている。そのグループでの演奏が観られたのは幸運だった。
 よく調べてみたら、ウイリアム・パーカーは80年代半ばからFMP周辺のミュージシャンと共演し、TMMに何度も出演していることに気がついた。TMMというと、パワーで押すようなフリープレイの欧州ミュージシャンが集合するフェスティヴァルのように勘違いされがちだが、そこに出演してきたミュージシャンは多種多様である。ひとつだけ言えることは、即興演奏において自らのヴォイスを探求する各国のミュージシャンが参集していたということだろう。また、ミュージシャン同士の交流の場であった。だから、そこに彼がいても不思議ではなかったのである。

 

 再びウイリアム・パーカーを見たのは2006年、今度はサインホ・ナムチュラク、ハミッド・ドレイクとの共演でまたもやTMMだった。サインホのヴォイスとの絡みは絶妙だったと記憶に残っている。そのステージを観ながら、ふとペーター・コヴァルトのことを思い出していた。2002年に亡くなったブロッツマンの盟友であり、ヨーロッパ・フリーの代表的なベーシストである。彼の最後を看取ったのがウイリアム・パーカーだったということ、サインホを世界的に紹介したのがペーター・コヴァルトだったからかもしれない。その時、世界中を旅し、ローカルな音楽シーンとの交流を求めたペーター・コヴァルトの生き様がふと重なって見えたのである。ニューヨークで毎年開催されているヴィジョン・フェスティヴァルに繋がるサウンド・ユニティ・フェスティヴァルを開催したのも彼とウイリアム・パーカーだった。
 もし私がウイリアム・パーカーをヴィジョン・フェスティヴァルで、あるいはホームであるニューヨークのどこかで観たのであれば、たぶん全く違うことを書いていただろう。けれども、幸か不幸かたまたまベルリンで、しかも異なった個性のミュージシャンとの共演で観たことで、図らずも彼の開かれた音楽性の一端を体験出来てよかったと思っている。彼もまた旅し、多くの音楽家と交流してきた人だからだ。
 まもなく、私たちは新たな出会いに立ちあうことになる。来る7月、彼が土取利行(ds)の招きで来日し、エヴァン・パーカー(sax)と共に、群上音楽祭、そして京都と東京で演奏する。フリージャズの時代に音楽活動を始め、その洗礼を受けたという以外は、バックグラウンドも個性も全く異なる3人がひとつのステージに立つ。このようなことが可能なのも、即興音楽世界でのミュージシャン同士のネットワークがあればこそ、開かれた音楽であればこそなのである。三者三様に音楽探究をしてきた、いわばサウンドの旅人たちが日本で出会う公演のフライヤーには「超フリージャズ・コンサートツアー」と書かれていた。フリージャズの向こう側からどのような音楽が聞こえてくるのか、それを体感することを私は心待ちにしている。

【関連リンク】
群上八幡音楽祭2015
http://gmf2015.wix.com/free
*京都・東京の情報も上記サイトに載っています。

Jazz Right Now #03
ウィリアム・パーカー・インタビュー<前編>
http://www.jazztokyo.com/column/jazzrightnow/003.html#04

横井一江 Kazue Yokoi
北海道帯広市生まれ。The Jazz Journalist Association会員。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。海外レポート、ヨーロッパの重鎮達の多くをはじめ、若手までインタビューを数多く手がける。 フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年〜2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)。趣味は料理。本誌編集長。

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FIVE by FIVE 注目の新譜


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追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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