COLUMN#157 OIKAWA:JAZZTOKYO

『ジョー・サンプル & NDRビッグバンド／チルドレン・オブ・ザ・サン』
text by Kimio OIKAWA

ビクター・エンタテインメント
VICJ-61675 2,625円（税込）

Joe Sample & NDR Bigband:
Jorg Achim Keller (conductor, arrangements)
Joe Sample (compositions, piano)
Thorsten Benkenstein/Ingolf Burkhardt/Claus Stotter/Reiner Winterschladen (tp)
Fiete Felsch/Peter Bolte (as)
Christof Lauer/Lutz Buchner (ts)
Frank Delle (bs)
Nils Landgren (tb,vo)
Dan Gottshall/Klaus Heidenreich/Stefan Lottermann (tb)
Ingo Lahme (b-tb)
Stephan Diez (g)
Ingmar Heller (b)
Robert Ikiz (ds)
Marcio Doctor (perc)

1. アイ・ワナ・ゴー・ホーム
2. バターミルク・スカイ
3. アイランズ・オブ・ザ・マインド
4. ラムファイア
5. ゴールド・イン・ザ・ケイン (イントロ)
6. ゴールド・イン・ザ・ケイン
7. アイ・ビリーヴ・イン
8. チルドレン・オブ・ザ・サン
9. ブルー・アビス
10. クレオール・アイズ
11. アルバトロス・デイ

Producers：Nils Landgrer, Patrick Rains
Recording Producer：NDR Oliver Bergner
Recording Engineer：NDR Michael Plotz

ビッグバンドをビッグバンドらしく捉えた優秀録音

NDRの録音は、何時も残響感を上手く捉え、楽器の本質を豊かな余韻で飾り立てる手法が光る。これは、おそらく放送局という職業的環境から生まれる、職人気質のなせる技と、私は思う。自らの経験を含めて。
ビッグバンドの音量と音の多彩さをマスで聞かせ、なにより歓喜させるのは低音に重厚さを感じることだ。各セクションが引き出す、ソリの多彩な音色を、空間音響ミックスとして捉えていることが重要だ。それぞれの楽器にマルチマイクで処理した録音に慣れていると、このマスで迫る表現に、深い反省を感じる。
楽器のそれぞれが細身になっていない。鮮明さが優先されるあまり、管楽器の発する音圧感、重圧感、が希薄になりがちだが、ここでは演奏集団のエネルギーを独り占め出来る。音量を上げれば、ナマの演奏を浴びているようで気分爽快。
スティーヴ・ガッドのサウンドが、今まで聞いていた音と違い、これも聞きどころだ。デッドで、パタパタ、強力打音のイメージとは全く違う。空間に放たれる光の様な発散力が気持ちいい。
特にトロンボーン・セクションのサウンドが秀逸。これは、真似をしたいミキシング手法。研究しよう。ソロが浮き上がる音像は、単にバランスでの音圧だけでない、謎の音像の造り方だ。

及川公生：1936年、福岡県生まれ。FM東海（現・FM東京）を経てフリーの録音エンジニアに。ジャスをクラシックのDirect-to-2track録音を中心に、キース・ジャレットや菊地雅章、富樫雅彦、日野皓正、山下和仁などを手がける。2003年度日本音響家協会賞を受賞。現在、音響芸術専門学校講師。著書にCD-ROMブック「及川公生のサウンド・レシピ」（ユニコム）。