Vol.42 | キム・ミール&アイヴィン・ロンニング@スーパー・デラックス2015(東京・六本木)
Kim Myhr & Eivind Lonning @Super Deluxe 2015, Roppongi, Tokyo
Photo & text by Kazue Yokoi 横井一江

ノルウェーから多くのミュージシャンが頻繁に来日するようになって十数年。個人的に注目している二人のミュージシャンが再び来日し、デュオで演奏するというので出かけることにした。

アイヴィン・ロンニングEivind Lonningは、私が今最も着目している金管奏者の一人。クリスティアン・ヴァルムルー・アンサンブルChristian Wallumrod EnsembleやモティーフMotifのメンバーとして来日しているので、特殊奏法も用いる彼の異才ぶりを観ている人は少なくないと思う。現代のジャズ、即興音楽を行き来しつつ活躍しているトランペット奏者だ。そういう意味では、独自の発想の豊かさといい、ドイツのアクセル・ドゥナーに似通ったスタンスを持つミュージシャンといえる。約2年前、スーパーデラックスで行われたSOFA NIGHTで、テナーサックスのエスペン・ライナーセンEspen ReinertsenとのユニットStreifenjunkoでの演奏を目の当たりにして以来、その活動をずっと注視しているのだ。なぜなら、並んで立った二人が特殊奏法を多用したサウンドから繰り出すストイックなアンサンブルに、即興演奏のクリシェから耳が解放される快感を味わったことからである。
キム・ミールKim Myhrの演奏を初めて耳にしたのもSOFA NIGHTだった。その時の演奏はソロ、12弦ギターをかき鳴らすことで、倍音の靄が現れ、それがゆらゆらと変容していく。こういう世界もあるのかと虚を衝かれた気持ちだった。アイデアとしての新規さもそうだが、即興音楽として成立させていたことに驚き、ギターによるエクスペリメンタル・ミュージックの最たるものだと思ったのである。
彼はギタリストとしてだけではなく、作曲家としても活動しており、トロンハイム・ジャズ・オーケストラにも作品を提供している。トロンハイム・ジャズ・オーケストラというと日本ではチック・コリアとの共演で知られているが、現代的な作品も演奏していて、アイヴィン・ロンニングも参加している。プロジェクトによって異なったビッグバンド・サウンドを聴かせているハイレベルのオーケストラだ。2015年のメールス・ジャズ祭では、唯一無二のヴォイス・パフォーマーであるソフィア・イェルンベリSofia Jernbergとフォーク・ミュージシャンのフィドル奏者オラヴ・ミェルヴァOlav Mjelvaをフィーチャーした編成で出演していたことからも、トロンハイム・ジャズ・オーケストラがいかに先駆的なことに取り組んでいることがわかるだろう。

この二人、キム・ミールとアイヴィン・ロンニングの共演はどうだったのか。今回の日本ツアーでは、二人共楽器演奏にエレクトロニクスを併用するという試みを行っていた。おそらくユニットとして日が浅いからかもしれない。エレクトロニクスの使用も含めてまだ様々な探求の真っ最中のようである。同じデュオ編成だが、エスペン・ライナーセンとのユニットStreifenjunkoと違い叙情性を感じた。アイヴィン・ロンニングの特殊奏法を駆使した楽音とは異なる抑制された繊細でよりサウンドに回帰するような演奏、そしてキム・ミールのドローンやエフェクターを用いた音色に、エレクトロニクスやおそらくサンプリングも使用することでサウンドの層が厚くなり、音色が多彩になったことで、内面性が浮き上がってきたからかもしれない。彼らのステージは、音に対峙して「聴く」というよりも音に包まれている感覚、ある種アンビエントな音空間だった。それにしても、寄り添っているが、緊密すぎない演奏家同士の距離感がなんとも絶妙だった。

ノルウェーでは、ジャズだけではなく即興音楽でも若手の逸材が出てきている。1980年代生まれのキム・ミールやアイヴィン・ロンニング、そしてまたエスペン・ライナーセンなど。彼らの今後に期待を寄せたい。

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横井一江 Kazue Yokoi
北海道帯広市生まれ。The Jazz Journalist Association会員。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。海外レポート、ヨーロッパの重鎮達の多くをはじめ、若手までインタビューを数多く手がける。 フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年〜2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)。趣味は料理。

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