Vol.87|
纐纈雅代(こうけつ・まさよ/as)
text by Seiichi SUGITA




 いま、一番、毎回聴くのを楽しみにしているのが纐纈雅代(as)である。というのは、いつも予想される音楽的位相を軽々と裏切ってくれるから。他のライヴ・ハウスでは演らせてもらえないとのことで、もっぱら<Bitches Brew>では、ソロである。
__最近、変わったよね?
「そうですか? 自分が表現したいものが、より明確になってきたんです。それをさらに完成度の高いものに演奏していきたい。日々、燃焼したいものがあります」
__纐纈さんがこだわってるのは、インプロバイズド・ミュージックなんだけど、いわゆるジャズって、死んだと考える?
「...人間関係が、たまたまジャズなわけで、ジャズじゃないかも分からない」
__自分の将来のことって考えてる?
「ニューヨークに住みたい。それが夢です」
 さて、纐纈を初めて知ったのは、ピッコロ・ベースの鈴木勲『ソリチュード』
(Sony Music)。纐纈のソロが大きくフィーチャーされて、まるでエリック・ドルフィーを彷彿させる。その発売からまもない2008年11月、鈴木の同ユニットが<Bitches Brew>に出演。思った以上に荒削りだけれども、オーソドックスなジャズの規範に飽き足らない、纐纈のフリーキーなインプロヴィゼーションに未完の素敵にスタイリッシュなイノベーターを視る。
 以来、ほぼ毎月<Bitches Brew>に出演。大きく変わることとなるのは、オマスズこと鈴木勲の下を離れてからである。表現の幅がより自由になったということ。
 現在は、自己のコンボ(ピアノは石田幹雄)のほか、“秘宝感”でも活躍。メンバーにスガダイロー(p)や佐藤えりか(b)がいる。
 纐纈雅代は、岐阜の出身である。高校を卒業後、社会に出るが、水が合わず、実家に一時帰る。
「高校時代にあれだけ夜毎チャーリー・パーカーをコピーした自分って、一体何だったのか?」
 纐纈は振り返る。「パーカーは、本当にフリーで、飽きることがありませんでした。本当に『密』な時間と空間でした」
__ギグの前とか、ギグのない日はどう過ごすの?
「実は、住まいから渋谷までの定期券を買ってまして、代々木公園でいつも練習しています」

 

__バイトは?
「ブライダルの演奏は、やってます」
 2012年3月、纐纈は。7日間<Bitches Brew>に出演。僕は店のキーを纐纈に預ける。店には、エア・コンがあるし、ピアノもあるからね。
 7日間、纐纈は毎晩、めくるめくデュオを展開。初日は、坂田明(as)。以降、加藤崇之(g)、竹内 直(ts)、中牟礼貞則(g)、市野元彦(g)、林 栄一(as)、石田幹男(p)という面々。
 その後は、<Bitches Brew>では、ずっとソロである。明らかに変わった、大きな理由に、ストラップがある。
__そのストラップは、何というの?
「BIRDストラップです」
 大阪のメーカー。鳥のツバサを広げたような形状のため、首を必要以上に締め付けないので、まるではばたくように、より自由に吹けるってわけ。
 参考までに、アルトサックスは、KING SUPER 20 SILVERSONIC。リードは、JAVA3 1/2。マウスピースは、NEWYORKメイヤー2000年モデル。なお、ぼくは未だ聴いたことはないのだけれども、1920年代製(現在は製造中止)のCメロ・ソプラノも吹くという。
 纐纈雅代のソロには、昨今少なくなった無頼的な毒がある。最近のアプローチには、まったく危なっかしさがない。とりわけ、メロディの解釈と、デフォルメの方法にはしばしば舌を巻くことも。
 あのコルトレーンのように、情動性に流されることもない。時々、そら恐ろしいほどに冷徹ですらあるのだ。
 同じメロディ・ラインを聴いても、まったく同じように聴こえないなんて、本当に凄い。
__どうしてなんだろう?
「最近、ホテルのラウンジで、一晩、4ステージこなしているからでしょうか?」
 ニューヨーク生活が、もうすぐそこまで近づいている。天才にして盟友、井上銘(g)も、ボストンへ行ってしまったしね。ますます楽しみではある。
 纐纈雅代が初めてアルバート・アイラーの<ゴースト>を吹き、確信に至った。

関連リンク:
http://www.jazztokyo.com/column/editrial01/v49_index.html
http://www.jazztokyo.com/newdisc/524/suzuki.html

杉田誠一
杉田誠一:
1945年4月、新潟県新発田市生まれ。
1965年5月、月刊『ジャズ』、
1999年11月、『Out there』をそれぞれ創刊。
2006年12月、横浜市白楽に
cafe bar Bitches Brew for hipsters onlyを開く。
http://hakuraku-bb.tumblr.com/
著書に『ジャズ幻視行』『ジャズ&ジャズ』
『ぼくのジャズ感情旅行』。
http://www.facebook.com/Hakuraku.BB
及川公生のちょっといい音空間見つけた >>


♪ Live Information
open 7:00pm/show 8:00pm

12/01 Sat 林栄一(as)
12/02 Sun 纐纈雅代(as)
12/04 Tue 城田有子(p) 河原厚子(vo) 岡戸 大(perc) Tommy G(ts,fl)
12/05 Wed 大由鬼山(尺八) 大沢逸人(b)
12/06 Thu 竹内 直(ts,fl,b-cl)
12/07 Fri 小村悦子(vo) 島田ロイド賢(g) フラクタル須原カリン(perc)
12/08 Sat 菖蒲谷 徹(p)
12/09 Sun 五十嵐 晋(as) “シークレット・ギグ”サトウアキラ(liquid light)
[要予約]
12/13 Thu 松戸志朗(ss) 時岡秀雄(ts)
12/14 Fri 石田幹雄(p)
12/15 Sat 纐纈雅代(as)
12/16 Sun “伽藍”井上史朗(el-b) 山内勝司(el-b)
12/17 Mon 吉良憲一(b) 露木説也(ds)
12/20 Thu マルコス・フェルナンデス(snare) 安藤優子(sax)
12/21 Fri 加藤崇之(g)
12/22 Sat 章まり子(vo) 山見慶子(p) JUNマシオ(ds)
12/23 Sun 庄田次郎(tp,as) 大沼志朗(ds) 金剛 督ts,fl,ss) 林 あけみ(p)
12/24 須藤秀平(p)
12/25 Tue 異形人【にら(Gt)+レンカ(踊り)】
フィーアールカ【宮西計三(Harmonica)+薔薇絵(Dance)】
12/26 Wed Soon Kim(ts) 井野信義(b) 北 陽一(tp)
12/27 Thu “モチ・ラボ”望月 孝(g, perc) 他
12/28 Fri 纐纈雅代(as)

問)Btches Brew 090-8343-5621(杉田)
http://hakuraku-bb.tumblr.com/
http://www.facebook.com/Hakuraku.BB

JAZZ TOKYO
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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
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オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
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CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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