Vol.90|
梅津和時(alto-sax, clarinet, bass-clarinet)
text by Seiichi SUGITA




2013年5月11日(土)、梅津和時、Bitches Brew for hipsters onlyに初見参。
はっきりいって、ぶっとんだ。
大半の音楽が余りに稚拙で、ダルで、疲弊化しちゃってるのは、まぎれもない事実。
 だからこそいま、梅津和時にこうして出会えるのである。
 梅津和時と、同時代に生きることができて幸せである。
 梅津自身と最後に出会ったのは、1975(76?) 年である。梅津が、ニューヨークのロフト「スタジオ We」で、『生活向上委員会ニューヨーク支部』を吹き込んで、帰国直後、もうすぐやめてしまうという八王子のジャズ喫茶「アローン」でインタヴューしたのである。当時、梅津は、「アローン」でアルバイトをしている。1969年以来ぼくが主宰してきた『ジャズ』誌でインタヴューを行ったのだが、今現在、手元に見つからない。
「スタジオ We」に、ぼくが足しげく通うようになった理由は、1969年のニューポート・ジャズ祭(ロードアイランド州)で、デイヴ・バレル(p)と出会ったから。『High』(Douglas)をプレゼントされ、ニューヨークへ帰ったら「スタジオ We」で、会おうぜってこととなる。初めて、ニューポートのステージで、サニー・マレイ(ds)や、アラン・シルヴァ(ce)らとの共演を聴き、デイヴは、セシル・テイラーを、セロニアス・モンクを超えるアーチストだと実感する。
 デイヴ・バレルのBYG盤のタイトルが『High II』となっている理由は、ダグラス盤に続くものという意味。ぼく自身がジャケット写真を撮影したトリオ・レコード盤のタイトルは、『High III』とすべきだったのかもね。
 1971年、ニューポート・ジャズ祭で暴動が起き、高級避暑地ニューポートから、ジャズ祭は追い出される。
 1972年、ニューポート・ジャズ祭は、拠点をニューヨークに移転。同時にアンチ・ニューポート・ジャズ祭である、ニューヨーク・ミュージシャンズ・ジャズ祭が行われる。その事務所が、エルドリッジ通りにある「スタジオ We」である。演奏会場は、ジャズ・クラブ「スラッグス」の他は、ほとんどが、ロフトである。あとは、教会。もっとも大きな会場は、ハーレムの「マウント・モリス公園」ぐらいかな。
「マウント・モリス公園」では、ファラオ・サンダース(ts)、アーチー・シェップ(ts,ss)、ジミー・ギャリソン(b)らを聴く。その数ヶ月後にジミーは死去。ぼくが雑誌『ジャズ』を止めたのは、その頃(すみません、今、手元にないもので__)。
 ぼくの興味は、ニューポート・ジャズ祭にはほとんどなく、ニューヨーク・ミュージシャンズ・ジャズ・フスティバルのプレス・パスで、足しげく会場という会場を通ったもの。ロフト・ジャズ・ムーヴメントの盛衰はここら辺にも、原因があるのですね。つまり、ニューヨークには、ニューポート・ジャズ祭に出たくても出演できないミュージシャンが、どれだけたくさんいるかってことです。
 その後は、興味の方向は、ある時期まで、アメリカよりもヨーロッパの方へ変わってしまいましたがね。

 

 さて、さて、梅津和時にもどらなくては。ディスコグラフィカルに梅津を振り返ってみると、1枚目が『生活向上委員会ニューヨーク支部』(1975年/コジマ録音)。日本人で参加しているのは、梅津の他は、原田依幸(p)。原田は、現在、肉体労働をしつつ、時折、「アケタの店」で演奏していると聞く。
「生活向上委員会」名義を辿ると、80年に「生活向上委員会大管弦楽団」でテイチクから2枚出している。その1枚目に、「M☆A☆S☆H☆」の森順治(as)が参加。日本のジャズ・パワーの集約というべき、「渋さ知らズ」の原点というか、
起爆力は、「生向委」にあったといえるのか?
 梅津和時は、現在、60枚ほどのアルバムを出している。忌野清志郎と初めてアルバムを出すのは、1982年。梅津自身『AEC とブリジット・フォンテーヌ/ラジオのように』(Saravah)に「匹敵」と断言している。
 ところで、ぼくが一番惹かれるのは、と言えば、『First Deserter(最初の脱走兵)』(off note)。
 梅津和時は、既に、この閉塞情況から脱出していたのである。この初めて体感する知的なゆらぎときらめきは、一体何なのだ。
 2013年5月11日(土)は、はっきりいって、ぶっとんだ。おおよそ、40年ぶりの邂逅。はっきりいって、衝撃である。
 当夜、来られなかった人のために記しておくと、バスクラは、「ヒカシュー」の野本和浩の遺品だそう。ぼくたちが知っているバスクラより少しサイズが大きくて、低い音が出る。
 ぼくは、自身の耳が正しいと絶対に信じるけれども__。B.B.で初めてバスクラを吹出すとき、エリック・ドルフィーの『アウト・トゥ・ランチ』を軽々とサラっちまったのは凄い。
 アンソニー・ブラクストンがいってたっけ。「音楽は、数学と同じだよ!!」
 ブラクストンとのデュオなんて、レコーディングしてみたいもの。やっぱり、音楽をやる以上、テクがなくっちゃね。そんなのフォービート以前の問題ですよ。
 インプロって、本当に、偶然性ってあるのだろうか?
 意識下とか情動性すら、明確に覚醒しうるのではないのかしら?
 梅津和時にとって、1音、1音、すべてが必然である。
 本当に同時代に生きていて、幸せである。

杉田誠一
杉田誠一:
1945年4月、新潟県新発田市生まれ。
1965年5月、月刊『ジャズ』、
1999年11月、『Out there』をそれぞれ創刊。
2006年12月、横浜市白楽に
cafe bar Bitches Brew for hipsters onlyを開く。
http://hakuraku-bb.tumblr.com/
著書に『ジャズ幻視行』『ジャズ&ジャズ』
『ぼくのジャズ感情旅行』。
http://www.facebook.com/Hakuraku.BB
及川公生のちょっといい音空間見つけた >>


♪ Live Information June 2013
open 7:00pm/show 8:00pm

6/01 Sat 菖蒲谷 徹(p)
6/03 Mon 大由鬼山(尺八) 藤川 清(ジャンベ)
6/05 Wed 竹内 直(ts,fl,b-cl)
6/07 Fri 河上素子(p) 中島 心(fl)
6/09 Sun 福田良子(vo) 山見慶子(p) 磯辺ヒデキ(b) JUNマシオ(ds)
6/13 Thu 纐纈雅代(as,ss) 熱海宝子(vo)
6/15 Sat Soon Kim(as)
6/16 Sun DJ サガワタカオ 伽藍:山内勝司(el-b) 井上史朗(el-b)
6/18 Tue 松戸志朗(ss)
6/20 Thu 纐纈雅代(as,ss)
6/21 Fri M☆A☆S☆H☆:大沼志朗(ds) 森 順治(as,fl) 雨宮 拓(p)
6/22 Sat Aural Fit:忘八門土(b,シタール) 南部輝久(ジャンベ)
6/25 Tue 纐纈雅代(as,ss)
6/26 Wed YAA:大由鬼山(尺八) 内田光昭(tb) 坂田有子(p) 松浦賢二(perc)河原厚子(vo)
6/28 Fri 浦邊雅祥(as) 石田百合(身体)
6/29 Sat モチ・ラボ:望月 孝(g,perc) 他
6/30 Sun シークレット・ギグ:五十嵐 晋(as) サトウアキラ(ライト)他

問)Btches Brew 090-8343-5621(杉田)
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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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