Vol.42
Niseko-Rossy Pi-Pikoe
Classic Tracks 336 – 343


サントリーホール溜池山王に向かう南北線飯田橋の駅のホームにいるとブリティッシュロックやプログレを聴きたい気持ちにさせられるのはどうしてだろう、これからクラシックを聴きに行くのに何の気のせいだろうとかれこれ5年間、謎が解けた。

「赤岩和美」先生のお名前がここにおられたのである。

それに反応できるこないだ月光茶房でお知り合いになった音楽マニアの方とラダメス師は同じ苗字なのであった、お二人からほぼ同時刻にメールがきて、クラシックのピアノについての見識がわたしを含めて共有するものだったから、意識がクラクラしてしまった。

ジャレット=マカルスキのバッハヴァイオリンとピアノのための6つのソナタを、相対化する耳になってしまったのだわ、ちょっとだけ寂しい。

橋本京子というすごいピアニストのCD『4大B+ブルーメンフェルトによる舞曲集』を入手する。このスタインウェイの表現ならラダメス師も許容されるのではないだろうか。

今月はダンスとの共演による高橋悠治ゴルトベルク、紀尾井のシフ、シャイー指揮ゲヴァントハウス管弦楽団、いいなあいいなあみんな。



<track 336> Mehliana: Taming the Dragon / Brad Mehldau & Mark Guiliana 2014

ブラッド・メルドー、出したな、こんなもん。気持ちいいじゃないか。

1980年生まれのドラマー/コンポーザー、マーク・ジュリアナとの新機軸、フェンダーローズにジャズ・ピアニストのメルドーを探すだけのぼくは呆気にとられていた。メルドー43か、いいオヤジづらになっているではないか。

今風のロックとか聴いてんのはよくわかってるさ、あれだ、『ハイウェイ・ライダー』の1・2曲目だけは買うぜ、編集CDRのキラー・チューンだ、ほかのは要らないけれど。で、本作にキラー・チューンがあるかと言えば、・・・無い。たとえばスフィアン・スティーヴンスみたいにパラノイアなロジックがあるかといえば、薄。現代ジャズのトップランナーであるジェラルド・クリーヴァーやジョン・ホーレンベックみたいな耳を引く毒のてんこ盛りでもない。とーぜん謎やアングラ感や発火のサムシングもない。コンテンポラリーなエッジが立ってもいない。

だけどこのキュートなジャケのアートがいい。赤が映える。オーディオセットの前では付き合うわけにはゆかないが、ドライブに最適だ。

ジャレットが「いけてんだろ、おれだって」と『No End』宅録ECM2013をリリースする暑苦しい年寄りの自己主張に比べると、ユーザーフレンドリーでドリーミーにしてくれる。つまり、彼はわかって演っている。頭が良いから。狂気で発火するなぞ、クールではないのさ、と、言わんばかり。そして何より、メルドー固有の官能トーンがトータルに息づいていることにうっとりする。

なにが「ゲーンスブール」だ。メルドーが Serge Gainsbourg の声をサンプリングしているのをどう読めば良い?もしかしてメルドー、男色?そうでなくっちゃ。ジュ・テーム・モア・ノン・ブリュ、聴くぞ。


<track 337> Kin (←→) / Pat Metheny Unity Group 2014

おおお、名優クリス・ポッターを擁した新生パット・メセニー・グループ。イマジナリーデイやザウェイアップの前進感、その先はどうした。小気味いいほど新味なし。それは統合。

そこがいい。新譜のちからというのがある。20年前の『ファースト・サークル』出して来なくても、出来は落ちるが新鮮な同型を楽しめるじゃないか。必殺の爪弾きもまぶしてあるじゃないか。購入後のワンシーズン、かけることができる。思い出が付着してくれたらあなたの2014年を記憶する保存盤にもなる。

パットは『Bright Size Life』(ECM1073)から『Secret Story』(Nonesuch)まで、パット・メセニー・グループからオーケストリオンまでを表現できる単一なプラットホームを手にすることができ、あらゆる表現が可能になったと語っている。御意。それは統合。

メセニー、メルドー、それぞれノンサッチから、時期を合わせて「ふたつ一緒にお買い上げ」チャンスに賭けるリリースの黄金律。現代人は1年にそう何度もCDを購入して音楽を聴こうか、だなんて思わないのだ。ビジネス・スケジュールがすべてに優先して制作されているのだ。メセニー、メルドー、ブロイラーだ。メセニー、メルドー、ブロイカーなら度肝抜いてCD屋に走るが。何書いてるんだ。

なんだよ、メセニー、あれだけケニーGに噛み付いていたのに、ここでのポッターの吹き方を聴いてると、お前さん共演したかったんじゃね?と、思う瞬間もある。

「自分のキャリアを振り返ってみると『80/81』というアルバムは、ギター、ベース、ドラム、サックスという一般的な編成での唯一の作品だったんだ。あの作品には、デューイ・レッドマンとマイケル・ブレッカーというふたりの素晴らしいサックス奏者が参加していた。だから、たぶん僕はクリス・ポッターが現れるのを30年も待っていたんだと思うんだけど(笑)、彼のおかげで、また同じような編成でやってみようという気になったんだ。今までにもたくさんの素晴らしいサックス奏者と共演してきたけど、クリスは特別だ。彼は、曲を書く上で僕をすごくインスパイアしてくれるんだ。彼のためにアンサンブルを組み立てたいと思わせてくれるほどにね。」

ごめん、おれが間違ってた。

ライル・メイズとはどうした?






<track 338> Country (Keith Jarrett) / Steve Gadd Band from 『Gadditude』 2013

2邦題『ガッドの流儀』、あれだけ大嫌いだったフュージョンに泣ける自分がいやだとかミスチル桜井和寿が「Surrender」で歌うけれど、神野さんがキースの「カントリー」演っている(http://www.jazztokyo.com/five/five1027.html)と言うので聴いてみた。接点無いだろ、ガッドとジャレット。

フュージョン全盛の80年代も遠くになりにけり。軽音楽サークルに顔を出すと、スティーヴ・ガッドの上手さに驚愕するのが旬であった中で、ポール・モチアンの名を出すと、チャーリー・ヘイデンと並べられて「下手くそなんだ」と上級生に言われていたもので。

「カントリー」、泣ける。力抜けてるの。

ペットのウォルト・ファウラーもマイルスのいいとこ取りした貢献だし、ラリー・ゴールディングスのオルガンもたまらん。ラリー・ゴールディングスがスコフィールド、デジョネットと組んだ『トリオ・ビヨンド』(ECM1972)2枚組はジャズ・ファン必携だ。

本家「カントリー」収録の『マイ・ソング』、百年の名盤、この頃のヨーロピアン・カルテットの若さ。線が細くて頼りないようで折れそうで切なくて美しくて金メダル、羽生結弦の笑顔に似ている。

「カントリー」をライブでピアノ・ソロで演ったトラックが収録された海賊盤LP、なぜかチェット・ベイカーがジャケになっている、渋谷のジャズ喫茶ジニアスにあって、さ、リクエストしに何度も通った。その後入手して、満足したら聴かなくなってしまった。


<track 339> Je t'aime... moi non plus / Jane Birkin et Serge Gainsbourg - ( 7 inch single 1969 )

You Tube > http://www.youtube.com/watch?v=LctKineGSP0

お聴きになられた通りである。元祖ちょいワルおやじと、若いモデルのおねえちゃんとの。

ディスクユニオンの店員をしていた若い頃、この曲を収録したジェーン・バーキン・ベスト2LP中古盤を隠し取り置きをしておいて、ロフト・シーンのフリー・ジャズ盤と、ジャズフロアに紛れ込んで捨て値をつけられたマイナーな現代音楽輸入盤をレジに持って行って、「タダの名前で取り置き入ってない?」、手にしてジャケを表裏して「ふーん」と、さも、ひとに頼まれたかのように購入してきて、アパートに戻るやいきなり雨戸を閉めたという、青春の名曲である。






<track 340> Johann Sebastian Bach : Six Sonatas for Violin & Piano / Michelle Makarski, Keith Jarrett (ECM New Series 2230-31) 2013

2010年にニューヨークで録音されていたもの。ただただ美しさに雲の流れのように遠く、沈むバッハだ。ジャレットが怖しいのは、彼はどう弾いても彼だとわかる音色があることだ。

聴いてわからなかったが、ラスト、第6番の第5楽章では、2分12秒あたりでマカルスキは楽譜にはない短いアルペッジョの“インプロ”を挿入しており、それは冒頭への回帰を投影している画期的で示唆的な演奏だという。「ここでのフィドル的な躍動感は、宮廷舞曲のジークもアイリッシュトラッドのジグも元来は同じ民族舞曲から派生したことを再認識させる」、なるほど、バッハの祖先は流しの演奏家だったというし。

神がかった録音ではないが、クラシックの奏者が出せない柔らかく重力に引っ張られない快活さがある演奏なのだと思う。

国内盤解説の前島秀国さんの記述がうれしい。おらは「Tokyo Music Joy」行ってたぞよ。

「1985年、彼がチック・コリアと共にモーツァルトのピアノ協奏曲を弾くために「Tokyo Music Joy」で来日した時は、NHK教育テレビで放送されたライブ映像を食い入るように見たものだし(当時は金欠の高校生だったので、実演のチケットは買えなかった)、その後、ほどなくして彼がバッハの《平均律クラヴィーア曲集第1巻》全曲をECMからリリースして世間を驚かせた時も(バッハにおける“パルス”の意味をこれほどわかりやすく教えてくれた録音は他にない)、オープン間もない八ヶ岳高原音楽堂で録音したバッハ《ゴルトベルク変奏曲》で彼がチェンバロ奏者として卓越した腕前を初めて披露した時も(第25変奏曲におけるリュート伴奏のような左手パートの絶妙な味わいといったら!)、その度ごとにそれを“事件”として受け止めた。

今、冷静に振り返れば、当時はバブル崩壊直前のセゾン文化華やかなりし頃で、まだ若者だったぼくは、その文化の産物−CDショップのWAVEとか映画館のシネヴィヴァン六本木とか−の一部としてキースのクラシック演奏ないしバッハ演奏を受容していたという側もあったと思う。事実、「Tokyo Music Joy」と八ヶ岳高原音楽堂オープンはセゾングループのサポートなしにはあり得なかったし、セゾン文化の精神的主柱のひとりだった武満徹がキースのクラシックを積極的に擁護していたことも大きかった。」

六本木WAVE。目を閉じると今でも思い出す。輸入盤の並び、ビニールの匂い。「Tokyo Music Joy」の華やいだ空気。高橋悠治たちが演った「アラバマ・ソング」の乾いたカッコ良さ。・・・心奪われた三宅榛名のオケ作品、あれはもう一度聴きたい、録音物でもいい!、できればライブで・・・。


<track 341> 赤い砂 白い花 (Marrakech mix) / 新居昭乃 from 『鉱石ラジオ』 2001

保刈久明のラジオノイズを駆使する音響センスが光るトータルアルバム。

このトラックだけ細海魚がアレンジしている。お腹が空いた音をダンボールに通した響きと宇宙人のふざけた声の加工音とエレピのエコー旋律で構成された音像が、ほのぼのしていてとても好き。

01年にこのサウンドは、早いと思う。アニメの音楽制作が、その潤沢な制作資金でもって時代を先導しているという事実はドキュメントされるべき。




<track 342> Robert Johnson (c1583-1633) : 安らぎをもたらす眠りよ Care-charming Sleep (1st version) / The Dowland Project (ECM New Series 1803) 2003

おれがベース・デュオ即興盤の最高峰はECMのデイブ・ホランドとバール・フィリップスのものだと断言していたら、ブルーノ・シュビヨン(Bruno Chevillon)がバリー・ガイとバール・フィリップスのほうだと主張するので、Maya Records 『Arcus / Barry Guy, Barre Philipps』1991を入手して聴いたらほんとだった。

バリー・ガイは奥さんマヤ・ホンバーガーの名前からMaya Recordsを作ってリリースしている(http://www.mayarecordings.com/mayarecordings/recordings2.html)。最近もサヴィナ・ヤナトゥとのデュオを出している。インプロに関してはアイヒャーよりもガイやレイクのほうが耳が上だ。

The Dowland Project :
John Potter voice
Stephen Stubbs chitarrone, baroque guitar
Maya Homburger violin
John Surman soprano saxophone, bass clarinet
Barry Guy double-bass

即興演奏家たちとヒリアード・アンサンブルのジョン・ポッターがダウランドに取り組むプロジェクトは好きだけど、なんでかな、バリー・ガイの強度ある即興演奏の鳴らし、が、古楽とレイヤー構造に聴いていたのかな、快楽の源泉はそこか、それは現代的なことだ!と、ひらめいた。

ジョン・ポッターは書いている。
「1998年、私はマンフレート・アイヒャーから、構想の依頼を受けた。17世紀の作曲家ジョン・ダウランドの歴史的な意味を見直し、次の世代が何かのきっかけとする基になるような、彼の歌曲の新たな解釈の出発点としてそれを使いたいというものだった。」

アイヒャー、恐るべし。


<track 343> また会えるかな? / 小沢健二 from 『球体の奏でる音楽』 1996

You Tube > https://www.youtube.com/watch?v=zR7SgouB4R0 おざけんの「あ」の開放感。 平易で深い歌詞。音楽をはみ出してゆく活動の萌芽。 ネットならではの妄想レコード企画(http://www.geocities.jp/jettaisa/m_record_002.htm)、スピッツに歌わせたい、わかるわかる。



Niseko-Rossy Pi-Pikoe:1961年、北海道の炭鉱の町に生まれる。東京学芸大学数学科卒。元ECMファンクラブ会長。音楽誌『Out There』の編集に携わる。音楽サイトmusicircusを堀内宏公と主宰。音楽日記Niseko-Rossy Pi-Pikoe Review。

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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