Vol.93|
三上 寛(シンガー、詩人、俳優)
text: Seiichi Sugita
photo: Mitsu Sugawara(菅原光宏)




 ここに1冊の雑誌がある。“JAZZ” 1975年5月特別増大号「70年代を生きのびるためのジャズ入門」。ぼくが編集していた“JAZZ”誌史上、最も売れた号である。
 特別企画として、永山則夫をとりあげる。
「みられているのは誰か」川本三郎
「たった一人の力で...」赤瀬川原平
「時は流れる...」中上健次
「北国からの殺人者」松本健一
「『略称連続射殺魔』公開にあたって 永山則夫との軌跡と私の北帰行」」富山加津江
「ジャズと今とオレと――」永山則夫
 永山則夫の特集を組んだのは、「永山則夫」自身がジャズそのものであるととらえたからである。その意図を判るものは、編集部内でもほとんどいなかった。「何ら、関係ないんじゃないですか?と大反対したのは、村田文一(後の「スゥイング・ジャーナル」編集長)である。
 1969年、永山則夫、19歳。連続ピストル射殺事件を起こす。永山則夫は、新宿<ヴィレッジ・ヴァンガード>のボーイであった。夜の部が永山則夫であり、昼はビートたけしであった。当時、中上健次は羽田で旅客機の清掃をやっていて、明け方仕事が終わると、<ヴィレッジ・ヴァンガード>で過ごす。
 海外から到着する旅客機は、知の宝庫ではあった。乗客が残していく最新の雑誌は喉から手が出るほど欲しかったもの。中上健二にとっても、あの植草甚一にとってもそうである。
 1969年4月6日に、永山則夫は逮捕される。19歳であったが、新聞の一面にでかでかと名前が載る。殺人を犯していたのは、その半年前からで、4人を射殺している。ぼくが“JAZZ”を創刊したのは69年5月。何度も明け方まで<ヴィレッジ・ヴァンガード>や<ポニー>で過ごしているから、永山とは会っているはずではあるが、記憶にない。
 2014年11月15日、Bitches Brewに三上寛が出演する。たまさか<ステーション‘70>の話しになる。<ステーション‘70>は、渋谷の<大盛堂>の並びにあったとってもトレンディなライブ・スポット。壁一面にブラウン管がびっしりとはめ込まれ、近未来の空間を思わせる。ぼくは、初めて三上寛の生と出会う。スゲー、本物のブルースが目のあたりにある、情況を突き抜ける憤怒の情念。そのとき、よど号ハイジャック事件が起こっていた。
<ステーション‘70>のマスターは、丸ビル三菱重工ピー缶爆弾事件の真犯人であり、じつは三菱トップのJr.である。三上寛と初めて出会った夜、浅川マキと一緒であった。
<ステーション‘70>にしばしば出演していたのが、高柳昌行(g)と阿部薫(as)である。<ステーション‘70>のマスターの死を知ったのは、三上寛によって。ぼくにとっては、いまも小樽でオーガニック・ワインを造っているはずであった。
 三上寛が<ステーション‘70>に出演したのは、デビューして間もなくのこと。三上寛は、青森県小泊(こどまり)の生まれ。小泊といえば、太宰治「津軽」のラスト・ステージ。太宰は、育ての親と再会を果たし、その後、玉川上水で自殺する。
 永山則夫も、青森の出身。いわゆる「金の卵」である。いかにして、ジャズと出会うことになったのであろうか?
 永山則夫自身の文章によれば、永山は、新宿でジャズと出会い、デューク・エリントンやマイルス・デイビスをよく聴いたという。永山則夫は、ジャズを聴きながら捕まるのを待っていたのだ。
 三上寛はいう。「初めてBitches Brew」に出演したとき、驚いた。杉田さんが『ピストル魔の少年』をリクエストしたからね。ジャズの人は永山則夫のことを、みんな忘れようとしていると、思っていたからね」。
「ピストル魔の少年」は、永遠のメッセージであり、テーマである。
 決して、永山則夫を風化させてはならない。永山則夫が風化したとき、ジャズは死滅するに違いない。

 

Live Information/December
12月 1日(月) 浦邊雅祥(as) 石田百合(身体)
2日(火) 大由鬼山(尺八) 雨宮拓(p)
3日(水) 萩原優(as) 金丸彗(g)鈴木悠平(ds)
4日(木) 長沢晢(ds) 吉久昌樹(g)
5日(金) CHU Makino(vo) 江口丈典(b)
6日(土) ほんごさとこ(vo)
7日(日) 木村由(dance)
8日(月) 牧原正洋(tp) 住合康太郎(p)
9日(火) 渡辺瑞季(ts) 蜂谷真紀(vo,p)
10日(水) MoM(vo,g)
11日(木) M・A・S☆H+北沢直子(fl)
12日(金) 西村知恵(vo) 高瀬裕(b)
13日(土) 高樹レイ(vo) 翠川敬基(cel)
14日(日) 東保光(b) 蜂谷真紀(vo,p)
15日(月) 大由鬼山(尺八)蜂谷真紀(vo,p)
16日(火) 村田直哉(turntable) 蜂谷真紀(vo,p)
17日(水) 蜂谷真紀(vo,p) ソロ
18日(木) 高樹レイ(vo) 蜂谷真紀(vo,p)
19日(金) 竹内直(ts,fl,b-cl) 蜂谷真紀(vo,p)
20日(土) 加藤崇之(g) 蜂谷真紀(vo,p)
22日(月) 纐纈雅代(ts) 蜂谷真紀(vo,p)
23日(祝) あうん:赤い日ル女(vo,microKORG)
Tommy Tommy(ガシュット・ノイズ・マシーン)
24日(水) 朗読 Xmasパーティ:水城ゆう(p)
25日(木) 竹内直(ts,fl,b-clソロ)
26日(金) 上野健太郎(エレクトロニクス)
ASTRO(エレクトロニクス)
27日(土) 島田透 (ds)
28日(日) 庄田次郎(tp,as) ニュージャズ・シンジケート
29日(月) 城田有子(p) 河原厚子(vo)
30日(火) Kawol(g)
31日(水) モチ・ラボ

その他、スケジュールは随時、Facebookで発表しています;
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www.facebook.com/Hakuraku.BB?fref=ts

杉田誠一
杉田誠一 Seiichi Sugita
1945年4月新潟県新発田市生まれ。獨協大学卒。1965年5月月刊『ジャズ』、1999年11月『Out there』をそれぞれ創刊。2006年12月横浜市白楽にカフェ・バー「Bitches Brew for hipsters only」を開く。著書に、『ジャズ幻視行』『ジャズ&ジャズ』『ぼくのジャズ感情旅行』他。

JAZZ TOKYO
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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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