Vol.44
Niseko-Rossy Pi-Pikoe
Classic Tracks 358 – 373


東京に出てきて、BGMはクリスタルキングの「大都会」、住み込みで毎日新聞を配達する販売店で。相部屋になった長野県は小谷村(おたりむら)から上京してきていた相沢和則先輩には感謝している。彼は大きなステレオセットを持ち込んでいて、ビル・エバンス『ワルツ・フォー・デビィ』やチャック・マンジョーネの『フィール・ソー・グッド』を大音量でよくかけていた。1980年。

ただくん、スコット・ラファロとのインタープレイがね。・・・はあ。・・・呪文か何かだろうか。

マージャンをして先輩があがると、1曲かけるのだし。18さいのおれはほとんどワルツフォーデビィの演奏をアルバムごと暗誦してしまっていた。鳴き三色ドラ1くらいで、そんなうっとりした顔しないでくださいよ、相沢先輩。

『スコット・ラファロ その生涯と音楽 翡翠の夢を追って』ヘレン・ラファロ・フェルナンデス著、中山康樹・吉井誠一郎・訳(国書刊行会)を読む。

ラファロは音楽狂でスピード狂で、常に限界まで突き進むタイプ、22さいのとき父親逝去に“ぼくは25歳で死ぬことになると思う”確信を口にしている。

自分は本当にジャズミュージシャンなのだろうか、真のアーティストやミュージシャンというものが一般大衆の認識の上ではどんどん無意味なものになってきていることが日々わかってきている、ウェーベルンに夢中になっている、誰か自分に追いつく者がいるのだろうか、ジャンキーのリーダー(ヘロイン中毒のビル・エバンス)と船出したのでは座礁するリスクがある、・・・。

そしてビール飲んだあと、チャック・マンジョーネの兄たちと音楽を聴いて歓談、チェット・ベイカー「グレイ・ディセンバー」を聴いて、チェット・ベイカーはアメリカの悲劇だと思う、とつぶやく、その数時間後、午前1時45分、飲酒運転居眠り単独事故で死亡。25歳。

まるで宇宙人だ、スコット・ラファロ。

当時のビル・エバンス、ほんとは追い詰められていた限界地点か。モチアンは「一緒に演奏するようになって、拍(タイム)を分解して、よりオープンなプレイをするようになった」と証言しているから、その後の現代ジャズ法王モチアンの軌跡は彗星のようなラファロとの遭遇に負っていたのだ。

(ラファロが死んだ10日後に生まれて、ビル・エバンスとチャック・マンジョーネでジャズの洗礼を知らず受け、ビル・エバンス嫌いでモチアンに陶酔するようになったおれなんだぜ、トーマス・モーガンをいち早く断言し、月光茶房でモーガンに会って“現代のスコット・ラファロ”だと、演奏のタイプは違うのに、言いつけていた、のも、わたしの中のジャズ史なのだ)

<track 358> Mosaique Mosaic / Christina Kubisch und Eckehard Guther (Gruenrekorder) 2013

室内でオバチャンが警備員に文句をつけて怒声をあげているところに、ギターのつまびきがかぶさってきて、フォークソングのうた声喫茶みたいに親密なコーラスが響いてゆく。

外に出て、何か通りで食べ物を売っているのだろうか、目の前で呼び声が繰り返される。

連結器の金属が軋む列車に乗り込んでいる。木製の古い車両であることがわかる。線路の打音を聴くと相当のスピードを出して走っているようだ。

連結器の金属がスイングする演奏にもなっていて気持ちいいと思っていると、音像が、鍛冶屋もしくは町工場の打音と変化している。周囲に響く言葉から外国であることはわかるんだけれど、その喧騒は昭和の日本なカンジだ。

遠くに犬が吠えている。全面に広大な敷地に響いている虫の鳴き声のサウンドスケープ。ウシガエルのような鳴き声が複数立ち上がってくる。うわあ、おまえら生きてんなあ。

そこから木造の音楽ホールでピアノを弾き語るおばさんのスケープに移る。調律が合っていないようなピアノ。賛美歌の練習。

クラクションを鳴らしながら、鐘を売っている露天を抜けて行く。お祭りの人出、場内アナウンス。カクラバ・ロビみたいな打楽器が鳴らされてお祭りから遠ざかる。演説のようなシャウトがかぶさる。小太鼓がドラムロール。ホイッスル。クラクション。歌う人々。渾然となり、祝祭のスペクタクル。

母親と子どもの売り声。祭りから離れて、枯れた草を歩んでゆく。遠くの喧騒なぞどこ吹く風と夕暮れの鈴虫たち。蒸気機関車が到着する。構成する金属音が胸を締めつける。列車は発車している。

屋外で放送されている宗教的な教義を語りかけている音声。バイクが通りすぎたり、人々はいつもの生活をしている。なかなかかからないバイクのエンジン。大きな蝿が飛ぶ羽音。

行進する吹奏楽と足踏み。やがて、雨が降ってくる。ばたばたトタン屋根を叩くような大雨だ。

いずれ雨はあがり、ぼくは名前を呼びかけられて、今日の一日を思い出す。


その場所の空気の匂いまで、感じてしまう。

福島恵一をして「眼から鱗が落ちる」「世界をとらえる耳の在処が変わってくるはず」と記述せしめる作品(http://miminowakuhazushi.blog.fc2.com/blog-entry-282.html)。フィーレコ素材が重なり、夢の中のようなあり得ない移動をするサウンドスケープが継ぎ目なく、その場所の匂いまでを感じるこのリアルな感覚。

エレキングでのレビュー
http://www.ele-king.net/review/album/003564/

それにしてもカメルーンは騒がしいほどににぎやかだ。作業をしている音も、怒りも祈りも、列車も屋外も家畜も、生きていることそのものが音楽的交流に溢れている。

サウンドアーティストとしてのクリスティーナちゃん、お、女性なのか、を、ちょっと想像する。レコーディング技師と連名クレジットでの本作。

Christina Kubisch - The Magnetic City (excerpt)
You Tube > https://www.youtube.com/watch?v=byZta08Lmpw

Christina Kubisch - Circles III
You Tube > https://www.youtube.com/watch?v=aS8tydDKQxY

注意深く、東京都練馬区に住むわたしの周りに耳をすましてみる。諸々の活動は、工場や養鶏場やライブハウスやコンビニに囲い込まれている。地下鉄に乗って、皇居や表参道や港区港南図書館や浅草雷門をめぐってみても、タクシーやトラックのタイヤがアスファルトを擦る音ばかりな気がする。だけど、そこで文明化批判に向かうのは貧しい思考だろう、な、しんとした夜中の街は電気モーターの唸りばかり、倍音とビートが足りないかな。

カメルーンの人たちに、東京をフィーレコした逆「モザイクモザイク」を聴かせたら、ぼくらのようにときめいたりするだろうか。


<track 359> Kunsu Shim / Love (senufo editions) 2013

Soundcloud > https://soundcloud.com/nhennies/kunsu-shim-love-excerpt

カーステに入れて、午前11時の板橋から成増にかけての住宅街を走る。公園に集まる小さな子どもたちと若い母親の歓声が遠くに聴こえている。祭りばやしの小太鼓が、「天・天・天・天」と鳴る。インターバル。また「天・天・天・天」と鳴る。次は「ト・ト・ト・ト・ト」。あれれ?練習用のお手本演奏トラックかな。なかなか始まらない祭りばやし。窓から吹き込む風が気持ちいい中で、晴れた住宅地の静かなざわめきに響いていた。ううむ、歯が立たない。

部屋でイヤホンをして集中して聴く。それぞれの打音のパーツは、個々に録られていてインターバルを置いて並べられているのは、録音マイクが拾うかすかなノイズで判断できる。そのホワイトノイズを聴き分ける構えで、パーツの途切れを待ったりしている。10分くらい経って、地に空洞倍音が響きはじめると、録音マイクノイズの把握が困難になる。空洞倍音が消えると、打音は鮮やかに変貌する。ふたたび空洞倍音(これは少し変化している)が地に現れるようになる。これが何度か繰り返されていると、“打音が鮮やかに変貌した”のかどうかわからなくなってくる。

パーカッションの音色の特徴でどうしても日本的な響きを連想し続けている。神社の儀礼音楽の作法がシンプルにモデル化されているのではないか、このノータイムな感覚は、日本と韓国のものかもしれない、いやそもそも言葉がこのようであったら、とか、時間の経過と集中力の波の相関、とか、ホワイトノイズが赤ん坊を泣きやます効果かな、とか、・・・音から離脱してゆく敗北感。

「福島恵一を追跡せよ」、指令が下っていた、音楽サイトmusicircus企画「2013年に聴いた10枚」(http://homepage3.nifty.com/musicircus/main/2013_10/)で福島さんが挙げていたディスクたちがターゲット。

『真上からのピンスポットが、真っ暗な舞台に離れて立つ俳優一人ひとりを浮かび上がらせ、わずか3秒、ほんの一言二言、密やかなモノローグを引き出す。そしてまた暗闇が訪れ、再びわずかな明かりとともにつぶやきが漏らされる。このようにして演じられるカフカ的オラトリオがあるとすれば‥。それは極端に禁欲的かつ濃密ではあるが、いささかも観念的ではない。Wandelweiser楽派の新たな可能性を開く、この韓国出身のコンポーザーに注目。』

パーソネルを見る。

Nick Hennies (percussion), Greg Stuart (percussion)

こ、これは!今年わたしが年間ベストに挙げた“これが聴きたかった、ネクスト・ステージ”と報じた天国的「リネアル」(You Tube > https://www.youtube.com/watch?v=MSQ69cKuibE)のニック・ヘニースではないか。

それに、4年前に座間裕子から輸入したマイケル・ピサロ『July Mountain』→タガララジオ8(http://www.jazztokyo.com/column/tagara/tagara-08.html)、わたしの耳とフィーレコとの幸福で牧歌的な出会いが初々しい、July Mountainとはわたしが7月生まれでニセコアンヌプリをアイコンにしていたことと合致し、武蔵小金井から府中にかけてひろがる見晴らしのいい住宅地の上空にセスナが飛んでいると勝手に若き日々への幸福連想を決め付けている、まさに、ファンタジーな誤った聴取を導入してもなお抗えない作品、の、グレッグ・スチュアートではないか。

July Mountain | Video by Ross Karre, music by Michael Pisaro, Greg Stuart, percussion
Vimeo > http://vimeo.com/39159300

観念的な、ファンタジーな聴取であったのだ。なむさん。


喫煙所友だち女子に上記「リネアル」を聴かせたら、耳が痛むという、耐え難いという。

わたしには、生理的に耐えられないサウンドがひとつだけある。それは瀬戸物のごはん茶碗の底のガリガリを、そっとこすり合わせる「ガズスススーッ」という音だ。ガキの頃から鳥肌が立つほどキライで、小学生の頃ソロバンの練習をしないでいるとおふくろから「まさのり、こするよ!」と脅され続けた記憶がある。チョークで黒板をこする音や、ガラスをツメでひっかく音は平気だ。

「リネアル」と瀬戸物茶碗底擦過音は、かなり近いと指摘される。そうかなあ。強烈な好きと嫌いは近似しているものなのか?(いや、たぶん、そうだ)

予備校勤めをしていた頃、同僚のミハラさんが、この音が耐えられないのでもらってくれ!と向山千恵の胡弓ソロCDをありがたくいただいたことがあったが、たでくうひとの不思議さ。

向井千恵胡弓ソロ
You Tube > https://www.youtube.com/watch?v=CFwhy3o-7PY

おお、気持ちいいではないか。




<track 360> A Lover's Concerto (作詞・作曲: Denny Randell,Sahdy Linzer、編曲: 武部聡志、日本語作詞: 岩谷時子)/ 薬師丸ひろ子 1989

なぜか、“恋は不思議 ちいさなうさぎのように 動けないわ でも恋はすばらしい”と、耳に去来する。

微細な手がかりを察知する耳のはたらきは、若い恋人同士がかすかな匂いや声を察知しあうことに似ている。

ラズベリー。

今年2月にSHM−CDで再発された『花図鑑』(1986)全曲松本隆作詞の名盤、1曲目「花のささやき」(試聴>http://www.amazon.co.jp/gp/product/B00I380COU/ref=dm_ws_ap_tlw_trk39)、モーツァルトのピアノ協奏曲第23番第2楽章のメロディー、トラックのエンディングは川のせせらぎと鳥のさえずりに夢幻の旋律が漂うという秀逸なレコーディングだ。ここでのフィーレコ効果の良さがアルバムトップの理由のひとつだろう。

邦画『Always 三丁目の夕日』シリーズを観てばかりいる(http://www.enpitu.ne.jp/usr/bin/day?id=7590&pg=20140425)、鈴木オートの奥さん役の薬師丸ひろ子がいいのだわ。

この映画、イメージとしての昭和のいいとこどり批判はわかりますが、いいんだよなあ、銭湯もあったよなあ、みんなで行ったよなあ。

高度成長期昭和の日本。鈴木オートが、みんな戦争で死んでいったのにおれだけシアワセになっていいのか。いいんですよ、生き残ったひとはシアワセになっていいんですよ、と、戦友の亡霊が話す。

戦争をきちんと記憶する、という点では、三善晃も同じく、抱え続けたのだろう。

8月に新国立で再演される「遠い帆」が4月27日からチケット発売されました。(http://www.toiho.info/ticket


オペラ「遠い帆」プレ動画(https://www.youtube.com/watch?v=oem_8Ube9_Q


ゲイリー・ピーコック (Gary Peacock、1935年5月12日 - ) 79さい、おたおめ。

Ralph Towner & Gary Peacock - Witchi Tai To
You Tube > https://www.youtube.com/watch?v=U_iaZESVRuo#t=33


<track 361> Part One (Dan Weiss) 7:42 / Dan Weiss from『Fourteen』 (Pi Recordings PI 52) 2014

Dan Weiss - The Making of FOURTEEN
You Tube > https://www.youtube.com/watch?v=YjKqAJSQiZc

4月27日(日)益子博之=多田雅範四谷音盤茶会での5曲目、ダン・ワイスのトラック。

Dan Weiss - Fourteen (Part One)
You Tube > https://www.youtube.com/watch?v=3b-aGukM0cM

Jacob Garchik - trombone (1-6), tuba (7); Ben Gerstein - trombone (1-6); David Binney - alto saxophone (1-6), clapping (2); Ohad Talmor - tenor saxophone (1-6); Jacob Sacks - piano (1-7); Matt Mitchell - glockenspiel (1, 2, 5, 6), piano (5), organ (1, 4, 6), clapping (2); Katie Andrews - harp (1, 2, 6, 7); Miles Okazaki - electric & classical guitars (1-4, 6, 7), clapping (2); Thomas Morgan - double bass (1-6); Dan Weiss - drums (1-6), vocal recitation (3), clapping (2); Stephen Cellucci - percussion (6), clapping (2); Lana Cenčić - vocals (1-3, 5-7); Judith Berkson - vocals (1-3, 5-7); Maria Neckam - vocals (1-3, 5-7).
recorded at Systems Two, Brooklyn on May 1-2, 2012.

この曲の骨格はトーマス・モーガンのベースとダン・ワイスのタイコであり、モーガンの果たす心臓がバクバク言いそうなスイング感があるからこそ、上盛りのサウンドが活きる様相である。

ダン・ワイスはタブラなのね、ドラマーとしてのOSは。なるほどね。

タガララジオ32(http://www.jazztokyo.com/column/tagara/tagara-32.html)で取り上げた、マーティ・ペイチの大編成をまとめて抜き去る疾走を聴かせる驚異的なスコット・ラファロにも通ずる力量だ。


<track 362> Evanescences / Casimir Liberski Trio (feat. Tyshawn Sorey and Thomas Morgan) (DALANG! RECORDS) 2010

ここから一部試聴できます > http://www.cdbaby.com/cd/casimirliberskitriofttys

タダマス13のアフターアワーズで、ダン・ワイスのトラックにモーガンを聴いていなかったのお?聴いていたのはおれだけ?モーガンなかりせば!と騒ぐおいらに、常連の池田さんが聴かせてくれたのは、なんとトーマス・モーガンとタイション・ソーリーが!のピアノ・トリオ、カシミール・リベルスキ、硬質でちょっといいピアニストだけど、この3にんはトリオで即興しているのだ、

これ、08年録音というから、プーさん、モーガン、モチアン『サンライズ』録音の前年ではないか!

われ、隠れ名盤発見せり。


<track 363> Floating / Fred Hersch (Palmetto) 2014

キングインターで発売予定(http://www.kinginternational.co.jp/jazz/kke-034/

Fred Hersch Trio - West Virginia Rose/Home Fries
You Tube > https://www.youtube.com/watch?v=VFBTWGVeqwY

1 You and The Night and The Music (Dietz/Schwartz - Warner Brothers Inc ASCAP)
2 Floating
3 West Virginia Rose (for Florette & Roslyn)
4 Home Fries (for John Hébert)
5 Far Away (for Shimrit)
6 Arcata (for Esperanza)
7 A Speech to the Sea (for Maaria)
8 Autumn Haze (for Kevin Hays)
9 If Ever I Would Leave You (Lerner/Lowe - Chappell-Co Inc ASCAP)
10 Let’s Cool One (Monk - Thelonious Music Corp BMI)

Fred Hersch(p), John Hebert(b), Eric McPherson(ds, perc)

ニューヨークには二人の天使がいる。音楽の神さまが、地上に遣わしたとしか思えない、死の淵から帰還した二人のピアニスト、フレッド・ハーシュと菊地雅章だ。菊地は ensemble improvisation の新世紀を、まだ弾きなさいと言われたんだと思う。そして、ハーシュは。

ハーシュは、響きと音色と痙攣の魔術師ブノワ・デルベックとのダブル・トリオが重要な参照点だろう、ジャズのピアノ・トリオ史の文脈を一旦外さないと享受できない何かがある。ライブ評(http://www.jazztokyo.com/live_report/report675.html)ではイクラだのシフだのピリスだの空振りレビュー三振状態、渋谷毅!と耳の直感は飛んでいた。

トリオの新譜が出る。タイトルが何と、Floating、浮遊だという。この、重力から開放されている浮遊感、というキーワードが照らす領域を思考しなければならない、やはり、というか、そしてまた言葉の届かなさにたたずむ。

The Song is You - Fred Hersch
You Tube > https://www.youtube.com/watch?v=jL9zmiz3Glw

渋谷毅、ボボ・ステンソン、林正樹、アンドラーシュ・シフ、マリア=ジョアン・ピリス、野島稔、安田芙充央、ケティル・ビョルンスタ、黒田京子、・・・このところ聴いたピアノを思ってみるが、それぞれ、比較対比できないピアニストだというところから先に進めないでもいる。

フレッド・ハーシュと菊地雅章が、ニューヨークという土地で放っているジャズの拡張。とにかく、この二人が別格の存在であることを記すにとどまる。


<track 364> 緑の森 / Luz Do Sol 平田王子、渋谷毅 (soramame record) 2014

1. パッサリン(Passarim) A.C.ジョビン
2. サンボー・サンボー(Sambou sambou) ジョアン・ドナート/ジョアン・メロ
3. ヴィーナス 金星 (Venus) 平田王子
4. ショーロ・バンヂード(Choro bandido) エドゥ・ロボ/シコ・ブアルキ
5. 開かれた鳥籠(Gaiolas abertas) ジョアン・ドナート/アベル・シルヴァ
6. ソウルメイト(Alma gemea) 平田王子/岡田郁香マリア
7. 朝食(Desjejum) 渋谷毅/平田王子
8. 十字路(Caminhos cruzados) A.C.ジョビン&ニュートン・メンドンサ
9. 天使の坊や(Menino-anjinho) 平田王子/岡田郁香マリア
10. 月のうさぎルーニー~ほしのうた(Moon rabit LUNY ~ Hoshi no uta) 渋谷毅/井出隆夫
11. 山形(Yamagata) 平田王子
12. 誰そ彼(たそがれ)(Tassogare) 平田王子
13. ヌウアヌ渓谷の滝(Ka wailele o Nu' uanu) ジェイ・カウカ

ぼくは、2011年の年間ベストにこの二人のファーストを挙げていた(http://www.jazztokyo.com/best_cd_2011a/best_cd_2011_local_11.html)。青木和富さんが書いている、『…ただ淡々と演奏が進行していくだけかというと、それは大きな間違いだ。常にドラマは起こっており、それが静かに進行している。そしてそこから、普段聴こえない音楽の鼓動がしっかり伝わってくる。平田王子と渋谷毅が共有しているのは、そんな音楽の空間なのだ。』、さすがだわ、動かし難いテキスト。

不意にセカンドがリリースされている。平田王子のヴォイスの表情が、ファーストで見られなかった領域に舞っていることに唖然としている。聖性を帯びるほどのキュートさ、奇妙な言い方かな。それに、渋谷毅のピアノ、一音一音にしびれるばかりか、ジャズの感覚でビンビン反応する、フレーズとしてのジャズピアノを弾いているというのではなく。

音楽って、すごいや。

ね。

ね。

ところで、一緒にハモって歌っている男性ヴォーカルは誰?CDのクレジットを探したんだけど記されていないけど。え、ええっ?渋谷さんの声なの?

おまけ。

しぶやさんといっしょ・アンコール@「アケタの店」40周年記念ライブ
You Tube > https://www.youtube.com/watch?v=vjUH5ZA7h6I
渋谷毅、かわいしのぶ、藤ノ木みか、外山明 (GUEST)小川美潮、金子マリ、平田王子、上村勝正、西尾賢

渋谷毅と菊地雅章は同い年で芸大付属高校で3年間一緒だったんだよな。新宿ピットインに2台のグランドピアノを並べた二人のデュオを聴いたのは、『タンデム』がリリースされた00年頃か。

渋谷毅もまた、現在(いま)を生きている。


<track 365> Hungry Ghost (Live) / Mehliana (Brad Mehldau & Mark Guiliana) 2014

タガララジオ42のトップに置いたブラッド・メルドー『メリアーナ』に、オーディオセットの前では付き合うわけにはゆかないがドライブに最適だ、と、書いた評価は変わらない。このジャケについて、小さな子どもにきかれても「これはね、怪獣がとっても辛いものを食べたんだよ」と応じることができる、ファミリー向けの意匠のほうが重要な、BGMインストであることは、同時にリリースされたメセニー作品とのセット販売。

ところが、である、このブラッド・メルドーとマーク・ジュリアナのライブ動画が3本アップされている。これが、衝撃的に気持ちいい。

Mehliana (Brad Mehldau & Mark Guiliana) - Hungry Ghost (Live)
You Tube > https://www.youtube.com/watch?v=tn6gjoMUEY4

Mehliana (Brad Mehldau & Mark Guiliana) - Just Call Me Nige (Live)
You Tube > https://www.youtube.com/watch?v=cnH27mxW0KM

Mehliana (Brad Mehldau & Mark Guiliana) - Sleeping Giant (Live)
You Tube > https://www.youtube.com/watch?v=Mrokp2Pmapg

ジュリアナのブログに、「80年代のローランド808ドラム・マシンにハード・バップドラマーの巨匠エルヴィン・ジョーンズとアート・ブレイキーを加えて、J DILLAの手を加えて、スクエアプッシャーを掛け算すると、それはマーク・ジュリアナになる」と、書かれているとおりの快楽だ。

マーク・ジュリアナ、クリス・デイヴ、ジェイミー・ウィリアムス、機械仕掛のおサルさんみたいにカッコいい、その技術革新で新しく感じる音楽のスケープは、それこそフュージョンの進化形のように拓かれている、でもそれは前世紀末に菊地成孔・坪口昌恭での自動変換シーケンスソフトMに聴いていた快楽(https://www.youtube.com/watch?v=w2BeqHYxMoM)の人力版にぼくには聴こえるから、もちろん人力である有機的なグルーヴ感やスリルは断層ある歓びでもあることは認めて、ハンコックやウエザーの21世紀型展開はあるかなあ、むしろ、菊地成孔・坪口昌恭こそがアメリカのコンテンポラリージャズを先取りしていたと視たほうが真実ではないか。

つまり、村井康司著『JAZZ100の扉 チャーリーパーカーから大友良英まで』に、菊地成孔と坪口昌恭がそれぞれトビラのひとつになっていることに、ちょっと不思議な感じをしていたのが、妙にストレート配球に思えてすっかり三振してしまっているのかもしれないのだ。

いやあ、それにしてもこのライブはかっこいいなあ。

コラムトップの写真は、2014年4月27日(日) 益子博之=多田雅範四谷音盤茶会 Vol.13 @ 綜合藝術茶房 喫茶茶会記=タダマス13でのワンシーン。撮影、原田正夫さん。

カラバッジオの世界か、エルグレコの世界か。斜めメガネの聖人タダマサは、ジュリアナ Guilianaの毒杯に今まさに墜ちるのであった。


「匂いも、観念も、ごくわずかな原因物質によって触発される。観念も極めて些細な、そしてしばしば意外な因子によって触発される。決して方法論に還元しえないと私は考える。採集の旅に専門家に同行してみよ。茸さがしの名人の跡を追ってみよ。」(中井久夫)


<track 366> ストップ&ゴー / 三木俊雄 フロント・ページ・オーケストラ (55 Records) 2013

1.ストップ&ゴー
2.パピヨン
3.エッシャーズ・ヴィジョン
4.スリープ・ライク・ア・ベイビー
5.クォンタム・リープ
6.マチルダ
7.サスペント
8.バイ・エニー・モーンズ・ネセサリー
9.イースト・プレイン
10.イフ・アイ・トールド・ア・ライ

三木俊雄(leader, ts)近藤和彦(as)浜崎航(ts,ss,fl)松島啓之(tp)奥村晶(tp)片岡雄三(tb)山岡潤(euphonium)福田重男(p)上村信(b)柴田亮(ds)岡崎好朗(tp=ゲスト)

1月には児山紀芳NHK−FMジャズ・トゥナイトでかかって、聴き始めていたらクレーム対応呼び出しがかかってバトっていたのでちょっとだけしか。

本サイトJazz Tokyoでの年間ベスト国内編(http://www.jazztokyo.com/best_cd_2013a/cd2013a.html)で、悠さん、成田さん、及川さんが選出、ぼくはまだ聴いていないんだよなあ、と、神野さんに話していた。だっておれはさ、キホンは小編成でクールなECM者だし、ラージ・アンサンブルはケニー・ホイーラーなのだし、評価するオーケストラは藤井郷子オーケストラのスケールであり、渋谷毅オーケストラの楽しさだし、あと、渋さ知らずだろう、・・・そうそう、こないだ益子さんに聴かせてもらった垣谷明日香のオーケストレーションはすばらしいものだったよ。

『ストップ&ゴー』、タイトルだけ先に憶えて、思い出すたびにカーズの「タッチ・アンド・ゴー」(1980)を思う。
The Cars - Touch and Go (Official Music Video)
You Tube > https://www.youtube.com/watch?v=L7Gpr_Auz8Y

村井康司さんも年間ベストに『ストップ&ゴー』を選出していたなあ。

Toshio Miki Front Page Orchestra "Stop & Go"
You Tube > https://www.youtube.com/watch?v=_BIBSwfH8kc

ついに聴く。おおっ、なんか力んでいないゴージャスさ、スムースさに引き込まれる。カッコいいではないか。それでいて揃うところはカチッとしている。GWの東北自動車道がまぶしい。ECMクオリティでの響きのブレンド感覚も充分に満たしている。これは相当力量があって場数をこなしていなければ出てこないナチュラルさだろう。本場アメリカでもこんなふうに仕上げられるオケはいないだろう、アメリカから届いた文化を高度に洗練させたトヨタ車の性能を思ってしまう、こんな気持ちいいジャズオケは世界にない。

成田さんは「10人揃いのサウンドも、腕利きたちのソロ・パートも、ちょっとでもズルっといっては申し訳が立たなくなる。そんな気配の微塵もないところに、このオケの地力を聴いたからだ」と、おなじとこ突いているし、及川さんは「一体、どうやってこのサウンドを捉えたかを、潜入取材したかったくらいだ」とサウンドの不思議さに唸っている。悠さんは「これはまさしく逃げも隠れもしない、ごまかしも、はったりもない、見栄を張ることも一切ない正真正銘のリアル・ジャズだ」と絶賛。

三木俊雄のある曲についての解説。
『小さい頃学校に行けず、字が読めなかったお婆さんが、夜間学校に通い「夕焼けが美しい」という文章を読み書きできるようになった。すると、いつも見慣れたはずの夕焼けを眺めた時、初めてその美しさに涙した、という話をきいたことがある。どこにでもある、些細な、しかし偉大な「美の要素」に意味を与え、少しでも取り出すことが音楽で出来れば、と切に思う。』

南青山の『ボディ&ソウル』での次回公演は6月26日(木)だ。


昨日同じ種族の音楽言語のように思った、マサダとイエペスと渚ゆう子と、もうひとつ、は、・・・レインボーの「Lady Of The Lake」だったー。あほな。

さらにそれは、チェリッシュの“なのにあなたは京都へ行くの、京都の街はそんなにいいの、このわたしの愛よりも・・・”と歌う曲(タイトル失念)にまで連想の稲妻が走った。あほや。

マサダ〜イエペス〜渚ゆう子〜レインボー〜チェリッシュ。なんつう脈絡のない5連星。ひとりでやってろ。やってますー。

ジョンケージのハープシコードの作品に、ショナ族のムビラを連想反応するくらいなので、極まってます。




<track 367> TAP / Pat Metheny (nonesuch) 2013

John Zorn - Tharsis (Tap: The Book of Angels Vol. 20, 2013) [Intérprete: Pat Metheny]
You Tube > https://www.youtube.com/watch?v=Bn3tGva79_o

ブラッド・メルドー『メリアーナ』を聴いて、最初おれは同じノンサッチでパット・メセニーがジョン・ゾーン・コンポジションに全力で取り組んだ『TAP』を横目に見たメルドーが、おれならそういうのをこんなふうに作るぜ、と、ジュリアナをつかまえて制作したのではないかと思っていた。ピアニストから全音楽作家への眼差しとして。

80年代MVPのジョン・ゾーン60とパット・メセニー59、よもやの共演がゾーンのコンポジションをメセニーが演じるというカタチで実現するとは。

メセニーのユニティ・バンドよりも、メセニーの手練手管が総力戦モードで投入されていて、依拠するコンポジションという制約、メセニーには書けない旋律体系という制約があるから、じつにいい仕上がりになっている。




<track 368>Beats, Rhymes, and Life / A Tribe Called Quest 1996

カート・ローゼンウィンケルの『ハートコア』(2003)は、ちょっとビートが斬新でカッコよかったが、聴いていたのはカートのヴォコ−ダー音声とマーク・ターナーの音色と旋律のライン、上下の仕方がきゅんとなる。え?このハーモニー構造にアーノルド・シェーンベルクの影響があるの?ものは言いようというやつでは。

Heartcore - Kurt Rosenwinkel [FULL ALBUM] [HQ]
You Tube > https://www.youtube.com/watch?v=NIAH3J2njxI

Kurt Rosenwinkel - Guitar, Keyboards, Drums, Programming
Mark Turner - Tenor Saxophone (1, 2, 6, 9), Bass clarinet (11)
Ben Street - Acoustic bass (2, 3, 6, 8, 11)
Jeff Ballard - drums (2, 3, 6, 9, 11)
With:
Ethan Iverson - Piano (9), Keyboards (6)
Andrew D'Angelo - Bass clarinet (4)
Mariano Gil - Flute (5, 8)

『ハートコア』はQ−tipとの共同制作で、Q−tipの『Kamaal the Abstract』にはカートが参加しているというのでアマゾンして聴いてはいたけど、ああそうですかとしか。

4月のある夕刻に音楽友だちとお茶しに待ち合わせ。おれに聴かせたい、手許に無いからとツタヤでレンタルしてきてまで耳にインストールしてくれたのが、トライブ・コールド・ウェスト(http://www.floor-net.jp/archives/2415)だった。セカンドにはロン・カーターなんて参加しているのか。聴いたことない。

へええ、Q−tipって、このトライブ・コールド・ウェストに居たひとなの。

Beats, Rhymes, and Life A Tribe Called Quest (Full Album)
You Tube > https://www.youtube.com/watch?v=-TxOSh_7nZo

96年にこれは早くて、これこそ名盤だとの評。うーん、ジャケがダサくて持っていたくないなあ。ふつーにヒップホップなんじゃね?96年って、ミスチルスピッツおざけんとECM周辺しか聴いてないものなあ、おれ。96年にティーンエイジャーでこれにノックアウトされていたら、ずいぶん耳の体幹構造まで異なっているのではないだろうか。52にもなって、こんなの聴かない。

あ。なんか、だんだんよくなってきた!


<track 369> A Quest to The Pharcyde / Bizarre Tribe 2012

ATCQ Vs. Pharcyde - Bizarre Tribe: A Quest To The Pharcyde (2012) [Full Album]
You Tube > https://www.youtube.com/watch?v=N99tx7l8yn0

トライブ・コールド・ウェストからYouTubeサーフィンしてて、これにハマる。ようわからんが、すげー気持ちいいではないか。いろいろオカズの混じり具合が、いまのわたくしにストライク。ベースとタイコのふつうにエッジが立つあんばいとか。日本語で説明されてるサイトはないのだろうか。あった、あった。

「激ヤバ・マッシュ・アップ!!Fela KutiとDe La Soulのマッシュ・アップも話題を呼んだGummy SoulのAmerigo Gazawayが仕掛ける次なる作品は、なんとA Tribe Called Questと、The Pharcydeがミックスされた危険な一枚!!A Tribe Called Questのサンプリングセンスを武器に、The Pharcydeのラップを巧みに絡めたキラー・トラックのオンパレード!!コレまた各方面で話題を呼ぶこと必至です!!!要チェーーック!!!」

意味わからへん。


クリストバル・ハルフテル
「第一旋法によるティエントとバトル・インペリアール」
Tiento del primer tono y Batalla Imperial (Cristobal Halffter)
You Tube > https://www.youtube.com/watch?v=VKyKWUMYJ9c

80年代にNHK−FMでエアチェックして気に入り、六本木WAVEに行くたびに探していた。

静かで穏やかなオーケストラが、毒がまわったように不協和音の嵐に呑み込まれていった、と、思いきや、能天気な皇帝お迎えマーチになってしまう、という、現代の分裂症ここに極まれり、といったスケール感、ダイナミックな曲だった。80年代的な歴史喪失のなんでもアリ感で、とっても良かった。なつかしー。

パウル・ザッヒャーの80歳を祝って作曲されたのだそう。

ロッキーのテーマ、ではない。


<track 370> Upgrade & Afterlife / Gastr Del Sol 1996

Gastr Del Sol - Upgrade & Afterlife (Full album)
You Tube > https://www.youtube.com/watch?v=1csREa4XcaQ

その後の音響派はこれで、行く末まで見えていた、と、わたしが豪語し続けていた名盤。

ようやく聴けた。当時トイズファクトリーの国内盤で聴いていたけど、10何年ぶり。

音響派、飛びつきました、わたし。パナソニック、ガスターデルソル、ジム・オルーク、ロス・アプソン、オメガポイント。でも住人になる資力が無かった。耳は変質した。玩具とは言わないけれど、すぐに袋小路が予測できた。ポピュラー・ミュージックの背景になってお終いだろうと思った。

当時はモンドという物差しも気に入ってました。エキスペリメンタルというのも。

正弦波だけ聴かされたのでは意味不明で、ジャズ・クインテットと同時に鳴る正弦波はカッコいい一発芸になった。でもそこまでだった。

エヴァン・パーカーの循環奏法が音響である素性を明らかにしたのは自然だと思った。

でも、今聴くとフツーね。当時の衝撃成分が、今ではすべてデフォルトになっているもの。やはり天才ジム・オルークとデイヴィッド・グラブス。2チャンネルで「Upgrade & Afterlifeでポピュラー・ミュージックの最高峰に到達したGastr del solと、全てのプログレはどっちがすごいか」なんてスレ。

これは、もはや懐かしい名盤だ。


Paul Motian - If You Could See Me Now
You Tube > https://www.youtube.com/watch?v=Utq0zFU_4dc

Paul Motian Trio 2000 + Two - Live At The Village Vanguard Volume I (2007)

Chris Potter, tenor saxophone
Greg Osby, alto saxophone
Masabumi Kikuchi, piano
Larry Grenadier, bass
Paul Motian, drums




<track 371> Ruins / Chris Speed, Zeno De Rossi (Skirl Records) 2014

ごおおお。1曲目「Abacus」は、法王ポール・モチアンの曲じゃないかー。クリス・スピードにしても市野元彦にしても、現代ジャズのカッティング・エッジな才能にとっては、モチアンがスタンダードだったりするのだ。

こんなの見つけた。
It Should Have Happened A Long Time Ago.mov
You Tube > https://www.youtube.com/watch?v=l26okz7-ILo
Russ Lossing Paul Motian John Hebert ベースがエイベアだよお。

さて、本盤、クリス・スピード 1967-(ts,cl)とゼノ・デ・ロッシ 1970-(ds,per)のデュオ盤。わたしはもう、クリス・スピードの斜めの棒読み中毒であり、スピードはコンテンポラリーの趨勢にある「フォルムからマチエールへ」(福島恵一)動向を示す注目の才能だ。

タダマス13で、益子さんが選曲(http://gekkasha.modalbeats.com/?cid=43767)したのは5曲目と11曲目の、耳をそば立たせる音響倍音表現に舞う先鋭的なトラックだった。

わたしは耳が特化してしまっているので、その音響倍音表現にさえクリス・スピードの匂いを感じて恍惚となっていたものだが、初参加の方もこれまでジム・ブラック盤では邪魔ではないかとさえ思っていたのが一気に好きになりました、凄いトラックでしたね、と、メールをいただいたりした。

ジョー・ロヴァーノ〜マーク・ターナー〜クリス・スピードへと進化した樹形の一本であることは、明白だ。

「Abacus」は、『Le Voyage / Paul Motian (w. Jean-Francois Jenny-Clark, Charles Brackeen)』(ECM 1138)1979で聴かれるのか、アナログ引き出して聴いてみようか。




<track 372> The Hanging Gardens / Magda Mayas solo

You Tube > https://www.youtube.com/watch?v=sueDW7SUKVM

Magda Mayas @ Roulette 9-15-13
You Tube > https://www.youtube.com/watch?v=TE2Q8coRjkc

耳が尖ってきたところで、インプロ・シーンに耳をむけてMagda Mayas を聴こう。

これ、ピアノ一台で演ってんだぜ、で、ピアノ一台であることはまったく重要な要素ではない、この打音への強烈な対峙ぐあい、音響への耳を研ぎ澄まして放つ選び抜かれた瞬間の音、音、音。耳が釘付け。この構成、ノイズだのアヴァンギャルドだのフリーだの、超えてるだろ。

このMagda Mayas マグダ・マヤスちゃん、ベルリンの即興演奏家だとしか知らない。かわいい。

タガララジオ5(http://www.jazztokyo.com/column/tagara/tagara-05.html)でブレミッシュとかと並べた即興ポトラッチ盤Christine Abdelnourクリスティーヌちゃん美人とのデュオ盤『MYRIAD』2012なんてのが、ある。

げげげ。ここで試聴してごらんよ、> http://unsounds.com/shop/myriad

耳が釘付け。こ、これは、買わねば。

インプロというと、即時的な自由とか強度とか網膜に映る図形美だとか、そこに賭けて耳にしてきたような気がするんだけど、これなんかはもう、響きを交わしあうところに重心がシフトしている構えに聴こえる。

「これは音楽なの?なんでこんなもの聴いているの」とPCに向かうステテコ親父に事情の知らないシロウトさんの野次が飛ぶ。気持ちいいからに決まってんだろ!

ねえ、ねえ、ハナシは全然あさってなんだが、これが二人の若い美人奏者によるものだという、そのことはワカル?わかるはずないよね。・・・おれ、わかるんだよ。


臨時ニュースです。

タダマスのアイドル、わたしだけのめがね女子、NY現代ジャズシーンでメセニー、フリゼールに次ぐ人気に急上昇のメアリー・ハルヴァーソンちゃんが、今年のフジロックに!

http://www.fujirockfestival.com/artist/artistdata.asp?id=3999

マーク・リーボウらとのザ・ヤング・フィラデルフィアンズ、プレイズ、オーネット?

『The Young Philadelphiansはポール・ニューマン主演の映画のタイトルで有名だが,マーク・リボウが率いるThe Young Philadelphiansはオーネット・コールマンの伝説的なバンドPrime TimeとThe Sweetと70年代のフィラデルフィア・ソウルの躍動感に敬意を表して作られたバンドだ。当然コールマンと一緒にプレイをしていたPrime Timeのジャマラディーン・タクマもカルヴィン・ウエストンもメンバーだ。また今回来日する新しいThe Young Philadelphiansには今最も注目されている女性アヴァンギャルド・ギタリストのMary Halvorsonが参加する。今ニューヨークで話題のメアリー・ハルヴァーソンが入った4人の即興演奏家達が演奏するオーネット・コールマンの曲やフィラデルフィア・ソウルがどんな音で再生されるのか?彼らは自分たちの音楽をパンク/ファンク/ソウル/ノイズだと言う。まだ誰も聞いた事が無い世界初演の新生The Young Philadelphiansに期待は募るばかりだ。』


<track 373> Alvin Lucier / (Amsterdam) Memory Space (Unsounds) 2013

Soundcloud > https://soundcloud.com/maze_music/amsterdam-memory-space-excerpt

こうしてサンプル聴ける、いい時代になったねえ。

この盤を耳にし始めてから、とろけている。漢字に変換すると、蕩けている。かつてこれほど気持ちいい音楽を聴いたことがあっただろうか。

もちろん。予断なく聴いている。風景を眺めるように、耳をすます。

さあ、何が始まるんだろうかと。

右手にカーブを曲がってみるように、応接間で初対面のひととお会いするように、能の舞台に舞いが進み来るように、風は吹いて花びらが落ちるように、親しいひとと目配せで何かが伝わるように、恋人同士の指と指の触れかたのように。

音の感触は、表情や匂いや体温を察知するように受信することで、到来している。

ギターであるとか、楽器であるとか、フィーレコであるとか、ラップトップであるとか、まあ、その音の正体は正しいかどうかは置いといて、このサウンドの生成の風景。

ぶつかりあったり、ハモったり、と、統一されたこの場を共有することが第一義ではない、と、個々の音は風景に歩み出ているようだ。それが先ず、気持ちいい。何かひとの意図を超えているようにも感じられる。聴くワタシがワタシでなければならないという強迫からも離れられる、このクールさ。それは楽器の音も、エレクトロニクスも、フィーレコも、等価に聴こえるようだ。おれには未だ到来せぬ仏教の音楽にも聴こえるものだ。

次に、セレクトされた音、そのものの魅惑。奏者の構成を見ると、エヴァン・パーカー・エレクトロ・アコースティック・アンサンブルみたいなものかなあ。

MAZE is:
Anne La Berge (flute and electronics),
Dario Calderone (double bass),
Gareth Davis (bass clarinet),
Reinier van Houdt (piano, keyboards and electronics),
Wiek Hijmans (electric guitar),
Yannis Kyriakides (computer and electronics).

いっせーの、せ、で、演奏を始めて、こうなるものだろうか。ううむ、AMMを聴いていた感覚もあるなあ。

この盤に対する福島恵一さんのレビューを読む。
耳の枠はずし 「ディスク・レヴュー 2013年6〜10月 その2」
http://miminowakuhazushi.blog.fc2.com/blog-entry-259.html

「外へ出て、そこの音の状況を記憶/記録し、それを追加、削除、即興、解釈なしに演奏によって再現せよ」とのAlvin Lucierによる指示に基づく作品。

ええっ?なにそれ。

「外界の音の状況」という目標がアンサンブルに共通のものとして先に設定、されているけど、奏者が再現に取り組む時に不足と過剰が明らかにされ。

おお。

これに対する応答が各演奏者を突き動かし、動的平衡を保ちながらの移動/変遷を余儀なくするとともに、アンサンブルを不断に更新していく。

なるほど。

他の演奏者の意図を探るのではなくサウンドにだけ応ずるため、触覚的な次元に至るまで全身を耳にして歩み続ける。結果としてアンサンブルはエレクトロ・アコースティックなインプロヴィゼーションを行うことになる。

ええっ?エレクトロ・アコースティックなインプロヴィゼーション、なのかあ。エヴァン・パーカー・エレクトロ・アコースティック・アンサンブルには感じられない別の事態に思われていたんだけど。エヴァン・パーカーたちは完全に聴きあって、演奏しあっていたように感じていた。

MAZEのみなさんは、個々がフィーレコになっているような感触だ。「目標が外にある」。これはすごいなあ。動的平衡を保ちながらの移動/変遷を余儀なくされているとともに、アンサンブルを不断に更新していくという彼らの意識は、なるほど、確かにあるのだ。

ううう。それにしても、気持ちいい。立ち直れない。もとい。なんか生きる希望がわいてくる。う、めっちゃ立ち直ってんじゃん!

橋爪亮督グループの「十五夜」神トラックをトーマス・モーガンに持たせてやったんだが、「十五夜」という曲は橋爪から、あんたは月ね、雲ね、だんごね、ススキね、と役割分担を振り分けられたカッティングエッジな演奏家たちが、「目標が外にある」意識でもってテクネーとタクタイルの限りを尽くすという点で、アルヴィン・ルシエやMAZEと図らずも視野を共有していたのだ。

一足飛びに、わたしたちもまた、このような音楽でありたいのだ。


00年に、ミシェル・ドネダが屋外に出て行ったCDを聴いて、ドネダ特集のページを企画した。「なぜ、ミシェル・ドネダに惹かれるのか」と題した。「ドネダの天使性みたいの」というタイトルで書いた。リード文を次のように書いた。

ソプラノ・サックスが振動する。
風を切って走る音。
打ち鳴らす手の震え。
追いかけられる音。音を運ぶ。
ころばないように注意する
気持ちの音。
友だちが話している音。
友だちと距離を楽しむ音。
追いかける音。風のにおい。
日差しのにおい。
夕暮れのにおい。
草むらの乾いたにおい。
湿ったにおい。
けもののうんこのにおい。
おしっこのゆげ。
えっちのにおい。
(『Momtagne Noire / Laurent Sassi, Michel Doneda, Marc Pichelin, Le Quan Ninh』を聴きながら)

そこでは、福島恵一さんから『耳男ドネダ〜キーの解剖学から息の気象学へ』という論考をいただいた。

track 373 『アムステルダム・メモリー・スペース』を聴きながら、その頃の2014年版を体験しているような、リアルな感覚が甦った。



(追記)
「アムステルダム・メモリー・スペース」を日記ブログに先行公開した夕暮れ、その数時間後に福島恵一さんがブログ「耳の枠はずし」に応答更新をいただいた。

「フリー・インプロヴィゼーションとフィールドレコーディング、アルヴィン・ルシエと小津安二郎」
http://miminowakuhazushi.blog.fc2.com/blog-entry-292.html

なんと、ここで小津安二郎が。頭の上にひらめきのマークが。「思想」の2014年1月号、前田英樹「小津安二郎の知覚」を読みに出かけなければ。

福島さんの論考に、唐突に上原ひろみが俎上に上げられているが、これはわたしの日記ブログでタダマス13福島さんレビューに応答する途上で、「ぼかぁねえ上原ひろみだのショーターだのハンコックだの、そういうジャズには期待していないんですよ」と Jazz Tokyo 神野さんのコメントをリンクしたりしていた経緯もあるからです(http://www.enpitu.ne.jp/usr/bin/day?id=7590&pg=20140430)。

こないだのタクタイル・ライブ・レビュー(http://miminowakuhazushi.blog.fc2.com/blog-entry-286.html)における、「眼の前に広がる空間にぽつんぽつんと穿たれた音と音の狭い隙間は、ちょうどアルペン・スキーの旗門のように見える」といい、「サッカー・ボールのリフティングの名人芸」といい、まさに!という視覚化だ。

「家のテレビで見たアンドラーシュ・シフ」(http://miminowakuhazushi.blog.fc2.com/blog-entry-94.html

“蓮實重彦はスポーツ観戦の醍醐味として「圧倒的な流動性の顕在化」を挙げるが、まさにその通りだ。潜在的なものにとどまっていた線/運動が一挙に顕在化した時の、世界がひっくり返るような驚きこそが、スポーツの快楽にほかならない。そして、音楽もまた。”

“瞬間瞬間に訪れる(それは「深淵が口を開けている」ということでもある)未規定性に向けて開かれている”、「即興演奏の質」。

深淵が口を開けている、というのがたまらない。

自転車を買ってもらって、五稜郭からの支線のあの踏み切りのこの位置、とか、まゆみちゃんちの肥溜めの裏、八百屋のあの木箱、米屋のポスト、だれかが溺れた底無し排水沼の立て札の前、工事の砂利山、を、バスの停留所に見立てて、ルート化して巡り続けていた。ブレーキをかけて立ち止まるたびに、そこに世界が開けていることに見蕩れていた。ただのヘンタイ小学生だ。フィーレコだ。

“つけっぱなしで見てもいないTVから伴奏音楽が流れ、それに混じり合わないギターの調べは隣家の開け放たれた窓から聴こえてくることに気づく。家の前の道路で子どもたちが遊んでいるようで、時折歓声が上がり、それをたしなめる母親の声がかぶさる。風向きが変わったのかブラスバンドの響きが揺らぎながら届けられ、川沿いの道を走るバイクの排気音や急に高鳴り始めた心臓の鼓動と混じり合う。”



Niseko-Rossy Pi-Pikoe
1961年、北海道の炭鉱の町に生まれる。東京学芸大学数学科卒。元ECMファンクラブ会長。音楽誌『Out There』の編集に携わる。音楽サイトmusicircusを堀内宏公と主宰。音楽日記Niseko-Rossy Pi-Pikoe Review。

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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